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【週末読む、観る】覚悟の整理整頓も…あさのあつこ「仕事の周辺」 (3/4ページ)
【児童書】
『にいさん』いせひでこ作(偕成社・1680円)
絵本『ルリユールおじさん』によって、絵本の「絵」の力をあらためて示してくれた作家、いせひでこの、描かずにはおられなかった世界。それが本書『にいさん』だ。
「ぼくには、にいさんがいた」という一文から始まるこの「にいさん」とは、ヴァン・ゴッホのこと。文中幾度となく「きみ」と呼びかけ、語り手になっているのは弟テオだ。
ゴッホは1853年に生まれ、90年に37歳で生涯を閉じている。4歳年下のテオも、その1年後に亡くなる。金銭面で兄を支えたことで知られる弟だが、それ以上に、「分身」と言われるほどの、精神の結びつきがこのふたりには大きい。
ゴッホの父親は牧師で、ゴッホは11歳で家族と離れ寄宿舎に入る。幼い兄弟が過ごしたろう麦畑での時間、そこを渡る風、鳥の声、森の散策、木登り。兄弟はこうした共有を互いに残し、離れ離れになったことになる。
学業を終え画廊の仕事につく兄。作品や画家について熱く語り、弟ものちに画廊で働くようになる。伝道師への道を模索し始める兄。貧困や劣悪な労働に苦しむ炭坑の地に赴任すると、徐々に弟への手紙にスケッチが同封されるようになる。
と、こう書いてしまっては、兄ゴッホの生涯をただ記述したようになってしまうが、本書では、おとなが感じとり、想像を広げてこその簡素さが余韻を招く。芸術というものへの接近、葛藤(かつとう)、孤独は、ゴッホとテオと、そして著者をも巻き込んで覆いかぶさるもの。それらを引き受けるようにして「絵」があり、『ルリユール』に見た見事な「青」が、さらに深みを増してここに出現する。画家による画家の兄弟の心象を描いた一冊が、生まれたことになる。
(作家 木坂涼)
伊勢英子 昭和24年、札幌市生まれ。『水仙月の四日』で産経児童出版文化賞美術賞。