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【青雲の大和】(204)新羅の砦 (2/2ページ)
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その者に玄理がひきあわされたのは、難波(なにわ)での皇居代わりに使われている小郡(おごおり)の宮で、大君から遣新羅大使に任じる旨の勅命をうけ、御前を下がってきたときだった。
「この者、かならずお役に立ちますぞ」
そういって鎌足がつれてきたのが、倭漢文麻呂(やまとのあやのふみのまろ)である。
信じられないことながら、この男、古人大兄(ふるひとのおおえ)の吉野(よしの)の乱に連座し、討伐隊に投降して流刑に処せられた旧蘇我(そが)勢の一人である。
あれからまだ一年を経ておらず、罪がとけたとはいいがたい。そんな人間をなぜ鎌足は、わざわざ選んできたのか。
「ご不審に思われるでしょうが、そこはこの鎌足に免じてよろしくおねがいしたい」
紹介がてら、鎌足が釈明してやっているあいだも、男は玄理のまえにぴたりと手をついて動かない。
倭漢といえば、あの蘇我馬子(うまこ)に命じられ泊瀬部(はつせべ)の大君(崇峻天皇)を暗殺した男のように、蘇我の手先に使われていた者が多いが、もとはといえば帰化系の文官である。鎌足にいわせれば、文麻呂は漢語ばかりか新羅語にも通じる語学の天才で、外交官として抜きんでた能力をもっているという。
「やつがれ、死して罪をつぐなうべきところ、ふたたびお役目にもどしていただきました。新羅では死んだつもりで働かせていただきます」
そういう文麻呂のただならぬ眼の光をみて、玄理はこの年若い小柄な男を信じることにした。