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【週末読む、観る】(4)あさのあつこ・お父さんも来るサイン会 (2/4ページ)
【旬を読む】『生きるための経済学』安富歩著(NHKブックス・970円)
東京大大学院教授 武田晴人
《従来とは異なる根源的な試み》
市場の経済学に関する書物は、これを支持するものも批判するものも世にあふれている。本書は批判の側に属するが、これまでとは異なる視角からの問題提起がある。そこには、市場の機能に対する根源的な問いかけがあり、他に例を見ないユニークな試みである。
著者は、現代の市場経済にかかわる経済学の理論は「非科学的である」という。なぜなら、現代人に信奉者が多い市場の理論は、「相対性理論の否定」「熱力学第二法則の否定」「因果律の否定」など、物理学の諸原理に反する仮定をおかなければ説得的な説明にならないからだ。人間の行動といえども根源的には物理の諸法則に従っているから、その原理を否定する経済学の理論が人間行動や社会のあり方を説明できるわけがない。できると考えるのは「荒唐無稽(むけい)」ということになる。
それでも市場の理論が魅力的と考えられているのは、そこに選択することの自由が保障されているような社会像が描かれているからだと著者は指摘する。そこから、「アカデミズム全体、あるいは近代そのものの持つ、最大の盲点についての考察の報告書であり、またその地平からの経済学への根本的な批判の書」が展開することになる。
議論は、責任と結びついた西欧的な選択の捉(とら)え方に、人々を「自由の牢獄」に閉じこめる鍵が潜んでいること、それ故に、〈選択の自由〉という希望こそが現代社会を呪縛(じゅばく)していることなどを指摘し、この呪縛から脱出口を探る方向へと進む。
その過程で、フロム『自由からの逃走』、ボラニー『個人的知識』『創造的想像力』などの著作が参照され、あるいは『論語』などに議論が及ぶことになる。フロムのいう「積極的な自由」、ボラニーの「暗黙の次元」での「創発」が重視されているが、特定の研究分野にこだわらず、柔軟な著者の思考過程が示されていく。このあたりの展開は、視野の狭い私にはとても先の読めない意外性に満ちていて面白い。
扱っている問題は難しいが、著者の説明はあくまで平明で直感的にもわかりやすい。経済学の専門家だけではなく、むしろ、これから経済学を学ぼうとしている人、市場理論的な経済観念にとらわれて生きづらさを感じている人たちに、著者のメッセージをぜひともひもといていただきたい。
たけだ・はるひと 昭和24年生まれ。専攻は日本経済史。経済学博士。著書に『高度成長』『仕事と日本人』など。