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【週末読む、観る】(3)『チャーチルが愛した日本』大きかった母の存在 (4/4ページ)

2008.4.27 09:16
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 ■『時の終わりへ』レベッカ・リシン著、藤田優里子訳(アルファベータ・2940円)

評・許光俊(評論家)

《捕虜収容所で生まれた名曲》

 オリヴィエ・メシアンは20世紀の最重要作曲家のひとり。中でも「時の終わりへの四重奏曲」は代表作とされる。クラリネット、ヴァイオリン、チェロ、ピアノという風変わりな編成で演奏されるが、これは作品が生まれた状況と関係している。作曲が行われたのは第二次世界大戦中、それもメシアンがドイツ軍の捕虜として収容所に囚(とら)われているときだった。たまたま同じ収容所に、すぐれたチェロ奏者やクラリネット奏者がいたのだ。

 ドイツ人はたとえ戦争中であっても芸術好き、音楽好きを誇っていた。彼らは捕虜の中に有名な音楽家がいるのに気づくと、特別待遇でもてなした。じゃがいも3個を盗んだばかりに処刑された捕虜もいるのに、音楽家たちには比較的ましな食料と暖房が与えられ、労働も軽減されたのである。それはドイツ軍が捕虜を寛大に処していると対外的に宣伝するためでもあったが…。

 本書は名作誕生の経緯を明かす音楽書ではある。だがもっと興味深いのは、その名作を取り巻く人々の人生模様である。ヴァイオリニストは、戦争のせいで演奏家生命を絶たれた。のちに俳優として成功したが、心の傷は癒えなかった。クラリネット奏者は、ユダヤ人だったため、生き延びるために何度も脱走を試みねばならなかった。作曲者は早々と解放され、ユダヤ人が排斥されて空席ができた音楽院の教授となった。ある者は戦争体験を完全に忘れようと努め、ある者は記憶を改竄(かいざん)した。ユーモアで苦悩を薄めようとした者もいた。いずれにしても、彼らは筆舌に尽くしがたい苦しみを味わったのだ。

 戦争は人間を試す。ここに記された、試された人たちの生きざまは、それがどのようなものであれ、重い読後感を残す。著者が、作品や作曲者の偉大さには敬意を払いながらも、偶像視していないのがいい。敵だったドイツ軍人も含めて、すべての人に平等なまなざしが注がれている。

 Rebecca Rischin 米オハイオ州立大音楽学部クラリネット科助教授。クラリネット奏者。

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