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【青雲の大和】(194)この日のために (1/2ページ)
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それをきいても玄理(くろまろ)は、倭馬飼(やまとのうまかい)なる者にさして恐怖を感じなかった。
玄理らにたいし、ひそかに刃(やいば)を砥(と)いでいるとしたら不気味ではある。独り市中に身をかくし、命を狙ってくるのは卑劣であり、蛇蝎(だかつ)をみるような嫌悪を感じるが、しかし、玄理が恐れるのは別のところにあった。
吉野(よしの)の乱を制して早や三月、いまだにこのような輩(やから)が泳ぎまわれる素地が、世上にあるという事実である。
改革の断行をまえにして、大氏族のあいだに動揺がひろがっているとしたら、それこそが問題だった。玄理としては、必殺を狙ってくる一人の倭馬飼より、動揺する多数の氏族を恐れなければならないのである。
「よし、まずその者の動きを探れ」
鎌足は佐伯子麻呂(さえきのこまろ)に命じた。
「これまで、いずれの場所に立ち現れたか調べあげ、わかればただちに報告せよ」
子麻呂は黙ってうなずいて、部下が待つところへ立って行った。
鎌足がその者の逮捕、あるいは誅殺(ちゅうさつ)よりさきに、吉野を脱出して以来の動きをつかもうとしているのは、やはり背後にいる者に警戒の眼をむけているのにちがいなかった。
倭馬飼自身をとりおさえるには、国博士(くにはかせ)の身辺の警戒を厳重にして待っていれば、いつかはとびこんでくるはずである。大化改新をまえにしたこの時期、鎌足にとっても、一人の倭馬飼より、むしろ動揺する多数の氏族が問題なのである。
子麻呂が出て行ったあと、鎌足は雄君に眼をすえた。
気づいた雄君は、さっと両手をつき、指示をうけるべく鎌足を仰ぎみた。
「汝(いまし)、大海人(おおあま)の皇子(みこ)にお仕えするのはうれしいか」
鎌足の瞳はなごんでいる。