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【週末読む、観る】(2) (1/5ページ)
■『国家と音楽』奥中康人著(春秋社・2625円)
評・西原稔(桐朋学園大教授)
《日本の近代化と伊澤修二》
伊澤修二といえば、明治時代における日本の近代化のなかで、西洋音楽教育の導入者にして、現在の東京芸術大学音楽学部の礎を築いた人物としてよく知られている。これまでも伊澤に関しての書物はいくつも刊行され、まさに近代洋楽史研究の本流ともなってきた。あとがきにも記されているが、本書は、長野・上伊那郷土館での丹念な資料研究を土台に、著者は新しい伊澤像を描き出すとともに、伊澤が日本近代においてどのような存在であったのかを改めて問いかける。
著者がとくに注目したのは、明治初期の軍楽隊とアメリカ留学時代の伊澤である。伊澤が信州高遠藩で少年鼓手に採用されたことにその後の西洋音楽とのかかわりの原点を見る。岩倉らがアメリカで接した最初の洋楽について記した第2章「岩倉使節団が聴いた西洋音楽」も読み応えがある。伊澤を西洋音楽導入者としてだけではなく、グラハム・ベルとの出会いや、その大きな目的が日本における「国語発音の統一を図ること」に向けられていたことなど、アメリカ時代の伊澤を多角的、かつ総合的に描き出そうと努める。また「国語と音楽」という章を立てて、音楽と言語障害者の発話や発声と、日本の国語の発音の統一が一つの課題であったということを指摘するが、この点は伊澤を総合的に理解するうえできわめて示唆的である。
著者がこれまでの伊澤論に対して疑問を提起するのが、「徳育」の問題である。国家教育社を結成して国家教育を推進した伊澤は、唱歌に対してどのような立場をとっていたのかという問題に、資料を読み解くことを通じて新しい光を当て、伊澤にとって、「全国ノ人民」を教育によって「皆国民」にしなければならないという、日本の近代国家建設が大きな命題となっていたと結論付ける。