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【週末読む、観る】著者に聞きたい−高木敏光さん ほか (4/4ページ)
『リアリズムの擁護』(新曜社・1995円)小谷野敦著 評・東郷克美(国文学者)
《作家への関心あふれる一冊》
一見、反時代的ともとれる書名だが、そこに自ら私小説的作品『悲望』も書いている著者の批評的企みと、日本文学の現状への異議申し立てがこめられている。私小説は日本文学を痩(や)せて貧しいものにしたとして、長い間否定的に評価され、花袋の『蒲団』はその元凶と目されてきた。『蒲団』を高く評価する著者は、書名と同題の巻頭論文で、花袋から柳美里に至る私小説・モデル小説を論評しつつ経験・実感の裏付けのない作品の「リアリティの欠如」を批判する。『蒲団』のモデル岡田美知代と作家との関係をめぐって、作品の虚実を追求した論文は、書きおろしの力作。付録としてそえられた花袋作品2編も説得的だ。
収められているのは、必ずしもリアリズム系の作家・作品を論じたものばかりではない。「歴史小説論」で歴史の真実にこだわった大岡昇平については、私小説的素材を扱った『花影』では、モデルに関わる自身の直接体験を回避しているとして、大岡=大作家の「幻想」からの脱却を説いている。その語りは率直でしかも実証的。批評の「リアリズム」を実践しているといえる。
著者は名にしおう恋愛学の第一人者だが、女を書けない作家司馬遼太郎に「恋愛恐怖症」的傾向を見出し、合理的精神を支柱とするこの作家は男女関係という非合理をリアルに描けなかったのだという説も首肯できる。総じて日本の作家は恋愛を書くのが下手だが、著者が指摘するように、中学高校の国語教材に恋愛小説が少ないのもそのことと無関係ではあるまい。川上弘美のどこか現実離れした恋愛ものに「ペニスなき身体」への願望を読み取るのもこの著者らしい。
いわゆるテクスト論者とちがって、この本には作家への関心が横溢(おういつ)していて、それがリアリズム擁護説とも結びついているのだ。
諸論中「落語はなぜ凄いのか」という一文が異彩を放っている。これぞまさに語りによる人間描写のリアリズムにほかならない。
こやの・あつし 昭和37年、茨城県生まれ。東京大卒。東京大非常勤講師。