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【青雲の大和】(156)吉野の反旗 (1/2ページ)
はるかに曽禰(そね)の里がみえてくると、子麻呂(こまろ)は胸の高まりを抑えきれず、馬を駆(か)って一本道を走りだしていた。
はやく佐保(さほ)に会いたかった。このまえは蘇我(そが)打倒に決起する直前だったから、もう四か月にもなる。佐保川のほとりの庵(いおり)で三日三晩、抱きあって過ごしたのが、いまでは遠い夢のなかのできごとのように思える。
あのときは死を覚悟していた。ひどく迷ってもいた。もし同僚の網田(あみた)がつれもどしにこなかったら、佐保とともに出雲(いずも)の国の因幡(いなば)の里に逃げていたかもしれない。
心の迷いがどこからきたか、子麻呂にはわかっていた。蘇我打倒へむけて極秘の策をねりあげていた中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)と鎌足(かまたり)を信じきることができなかったからである。
しかし、いまの心の晴れやかさはどうだろう。大事をなしとげたいまは、もうなにも迷うことはなく、悩むこともない。つぎの任務までにゆるされた二日間、あの河鹿(かじか)の鳴く庵で佐保と心ゆくまで抱きあって過ごせばいいのである。
一本道をまっすぐ、曽禰の里へむけ馬を馳(は)せていくと、どうして知ったか、こどもたちが歓声をあげ、はだしでとびだしてくるのがみえた。
おどろいたことには、里の入り口に大勢の村人たちが立っていた。皆で子麻呂を迎えにでてきたにちがいなかった。
その先頭に佐保が立ち、青い領巾(ひれ)を肩にして微笑んでいるのをみたとき、子麻呂のおどろきは戸惑いに変わっていた。
「どうしたんだ、これは」
馬をおりると、近づいてくる佐保にいった。
佐保は歩みをとめず眼のまえまで進んでくると、黙って子麻呂を抱き、そのまま顔を子麻呂の胸にうずめた。
みていた村人たちから歓声と祝福の声があがるのを、子麻呂はなかば呆然(ぼうぜん)としてきいていた。