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【週末読む、観る】◇論壇時評◇ 4月号 評論家・稲垣真澄 「うつの時代」の危機管理

2008.3.23 09:49
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 現代日本を評して「うつの時代」と呼ぶのは、単にうつが時代の病だからだけではなく、外向きに、前のめりに走り続けることへの反省がこめられ、しばし立ち止まり沈潜してみるというもう一つの生き方の意味を回復したい含意でもあろう。

 たしかに現代はうつに縁取られている。岩波明「国家指導者が『うつ病』に冒されるとき」(諸君!)は、国家指導者のうつと国民大衆のうつと2つのうつに触れる。うつ“にもかかわらず”見事に国家の舵(かじ)取りをしたチャーチルと、自らの重篤なる病“ゆえに”ヤルタ会談で国益を損ねることがあったとされるルーズベルトの場合を比較して、安倍前総理の突然の退場劇なども、将来大いにありうるリーダーが時代の病に冒された場合の危機管理の意味でも、冷静なる事例研究がなされなければならないという。

 大衆のうつに関しては、9年連続して自殺者が3万人を超えた事態の直接の背景をなすとともに、原因は単に経済的なものではなく、終身雇用の廃止に見られるような従来型ライフスタイルの崩壊、(共同体への)帰属感の喪失によるところが大であるとするが、はてそれでは、安定したライフスタイルと帰属感の回復はいかにしてなされるのか。喫緊の課題である。

 互いを見る温かな眼差し、という表現は情緒的・微温的にすぎるにしても、自利の追求が自他を分断し、自己犠牲(慈しみ)が自他を再結合するとすれば、共同体復興の試みも結局はそういう最もプリミティブなところから始めるしかないのかもしれない。国家には、たとえ経済合理性に反してでも守らなければならない制度や価値があったのではないか。

 中央公論特集「いま隣にある貧困」中の多くの筆者(岩田正美、雨宮処凛、佐藤優ら)が「格差は許せるけれど貧困は許さない」という言い方をするのも、格差は共同体内部のできごとであるのに、貧困はかすかな眼差しすら届かない共同体からの排除を意味するからにほかならない。

 今月号では2本の皇室論が目立った。園部逸夫・水谷三公対談「皇室存続の危機を直視しよう」(中央公論)と、保阪正康・御厨貴・高橋紘・斎藤環・原武史・松崎敏弥による座談会「引き裂かれる平成皇室」(文芸春秋)だ。

 前者は平成17年以来盛り上がり、悠仁様のご誕生で今は沈静化している皇位継承論議のさらなる深まりの必要性を説く。皇太子世代以降の男子継承者数がゼロから1になったにしても、絶対数が少ないのは相変わらずだからだ。園部自身、女子女系天皇を認める長子優先を説く「有識者会議」の座長代理を務めただけにその点での結論ははっきりしているが、国民と一つでありかつ「超越」せねばならない皇室像や、水谷のいう「民主主義は民主主義以外のものに支えられて初めて機能する」などの指摘は傾聴に値する。

 後者は、宮内庁長官による記者会見での「愛子さまの参内が依然少なく、両陛下も心配しておられる」発言や、雅子さまのご病気、ご公務、祭(さい)祀(し)、私的外出、あるいは小和田家おせち事件などをめぐるテレビや週刊誌報道を受けるかたちでの、皇室の直面するもう少し直近の諸問題を、まさにさまざまな角度から論じてゆく。ひょっとすると皇室は、平穏ゆえに永続したのではなく、問題を抱えその都度国民と一に危機を乗り越えることによって永続してきたのかと思ってしまう。

=敬称略

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