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【週末読む、観る】◇この本と出会った◇ 浪曲師・玉川奈々福 『私のための芸能野史』小沢昭一著(ちくま文庫)

2008.3.23 09:31
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 昭和46年、大阪。桂米朝師プロデュースの会で演じられた当時75歳の浪曲師・広沢瓢右衛門(ひようえもん)の「雪月花三人娘」。会場は、おそらく浪花節を聞くのは初めてであろう若い客ばかり。筋があるのかないのかよくわからないその浪花節を聞いた満場の客は抱腹絶倒、ひいひいいうほどオカシイ浪花節だったという。その場にいた小沢昭一氏曰(いわ)く。

 「『笑』は常に新しく現代的なものである。笑わせる作業を続け、それが成功する限り、演者は必然的に現代に生きるのである。……衰亡の浪花節が『人情』ずきの老世代の時間切れのあとで、もし起死回生をはかるとすれば、それは『笑う』浪花節であろう」

 私は深く納得する。実に、浪花節は笑いに向いている。『私のための芸能野史』。この本にどんなに胸をかきむしられ、また勇気づけられたことか。小沢さんは私たち浪花節の恩人である。古来、日本は種々の芸能さきわう国であった。ところが時は流れ、高度成長期を迎えたこの国には、芸能者たちの生きるすきまがなくなった。声もあげずに消えてゆく彼らの、最後の姿を記録したのが小沢さんである。浪花節のご先祖たる芸の数々を、音と取材で残してくだすった。

 しかし、その取材録であるこの本は同時に、若き小沢さんの格闘の記録なのである。この国の芸能は、芸をやらざるを得ない宿命を負ったクロウト衆たちのものだった。芸というあやうい刃の上に遊ぶ彼らに強烈に憧(あこが)れつつ、そうなりえない「シロウト新劇俳優」小沢昭一は、彼らを懸命に追う。インタビューのしかたがニクイ。相手の胸襟を開き、語らせるテクニック。その底には、深い敬意と共感がある。シロとクロの間でのたうちまわる小沢さんの姿……。初版刊行から35年。もはやこの国に、クロウトはいない。だからこそ私はこの本を、お守りのように浪曲台本と一緒に、鞄(かばん)にしのばせている。

 〈メモ〉 たまがわ・ななふく 神奈川県生まれ。日本浪曲協会主宰の三味線教室に参加したことをきっかけに平成7年、玉川福太郎に入門。19年、関西の若手、菊地まどか、春野恵子とともに浪曲ユニット「浪曲乙女組!」を結成、東西で公演を行う。

 ■小沢昭一 昭和4年、東京生まれ。俳優座養成所を経て俳優に。大道芸や放浪芸の研究者としても知られる。『私のための芸能野史』は浪花節、万歳、女相撲など多彩な芸能についてフィールドワークしている。

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