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【青雲の大和】(140)大義はわれに (1/2ページ)
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丘のうえの蘇我(そが)邸の中門をはいると、白い石敷きの道がまっすぐに延び、正面に二重の甍(いらか)を乗せた巨大な建物が基壇のうえに腰をすえていた。
蘇我勢が上(うえ)の宮門(みかど)と、称していた大邸宅のいわば正殿である。
黒煙が噴きあがっているのは奥の方で、正面からみた建物の重厚さは、いささかも損なわれていない。
船恵尺(ふねのえさか)は火中から取りあげてきた国記(こっき)の数巻をかかえたまま、煙が流れる邸内へふみこんでいく。
鎌足(かまたり)は勝麻呂(かつまろ)隊の兵にまもられ、それにつづいた。
薄暗いなかで、女たちが衣の袖で口を覆い、不安そうに立っている。
「こちらです」
恵尺は接見の間とみられる広間の正面に、鎌足をみちびいていった。
一段高くなった主座に棺(ひつぎ)がすえられ、そばで豪奢(ごうしゃ)な紫紺の衣冠をつけた人物が短剣を手に、血にまみれて倒れていた。
大臣(おおおみ)、蘇我蝦夷(えみし)である。
「天皇記(てんのうき)、国記を火中に投げいれられたあと、大臣はみずから命を絶たれたのであります」
そういって恵尺は手をあわせ、瞑目(めいもく)した。
「最期のことばはなかったのか」
鎌足はきいた。
「わたしは天皇記、国記を火中からもちだすのに夢中で、きいておりません」
「あの棺は……」
勝麻呂が問いかけた。
「ご覧ください」
恵尺は立っていって棺の蓋(ふた)をあけ、なかを示した。
入鹿(いるか)の遺骸(いがい)だった。
父の蝦夷は最期に、この重厚な漆(うるし)塗りの棺に入鹿の亡骸(なきがら)を移してから、自害して果てたようである。
「皆、火がまわらぬさきに、遺体をはこびだせ」
ぼうぜんとみている兵に、勝麻呂が命じた。広間はすでに息苦しいほど煙にみたされている。