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【青雲の大和】(140)大義はわれに (1/2ページ)

2008.3.16 08:09
このニュースのトピックス青雲の大和

 丘のうえの蘇我(そが)邸の中門をはいると、白い石敷きの道がまっすぐに延び、正面に二重の甍(いらか)を乗せた巨大な建物が基壇のうえに腰をすえていた。

 蘇我勢が上(うえ)の宮門(みかど)と、称していた大邸宅のいわば正殿である。

 黒煙が噴きあがっているのは奥の方で、正面からみた建物の重厚さは、いささかも損なわれていない。

 船恵尺(ふねのえさか)は火中から取りあげてきた国記(こっき)の数巻をかかえたまま、煙が流れる邸内へふみこんでいく。

 鎌足(かまたり)は勝麻呂(かつまろ)隊の兵にまもられ、それにつづいた。

 薄暗いなかで、女たちが衣の袖で口を覆い、不安そうに立っている。

「こちらです」

 恵尺は接見の間とみられる広間の正面に、鎌足をみちびいていった。

 一段高くなった主座に棺(ひつぎ)がすえられ、そばで豪奢(ごうしゃ)な紫紺の衣冠をつけた人物が短剣を手に、血にまみれて倒れていた。

 大臣(おおおみ)、蘇我蝦夷(えみし)である。

「天皇記(てんのうき)、国記を火中に投げいれられたあと、大臣はみずから命を絶たれたのであります」

 そういって恵尺は手をあわせ、瞑目(めいもく)した。

「最期のことばはなかったのか」

 鎌足はきいた。

「わたしは天皇記、国記を火中からもちだすのに夢中で、きいておりません」

「あの棺は……」

 勝麻呂が問いかけた。

「ご覧ください」

 恵尺は立っていって棺の蓋(ふた)をあけ、なかを示した。

 入鹿(いるか)の遺骸(いがい)だった。

 父の蝦夷は最期に、この重厚な漆(うるし)塗りの棺に入鹿の亡骸(なきがら)を移してから、自害して果てたようである。

「皆、火がまわらぬさきに、遺体をはこびだせ」

 ぼうぜんとみている兵に、勝麻呂が命じた。広間はすでに息苦しいほど煙にみたされている。

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