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【青雲の大和】(139)大義はわれに (1/2ページ)
抜刀した勝麻呂(かつまろ)隊の兵は、丘のうえの蘇我邸の建物につぎつぎと跳びこんでいく。なかに隠れている敵兵をみつけだし、たたき斬るためである。
しかし、ひきだされてくるのは女ばかりだった。
「斬るな、斬ってはならぬぞ」
勝麻呂が声を嗄(か)らして叫びつづけている。
鎌足(かまたり)は中門のまえで馬を降り、指示を仰ぐため近よってきた勝麻呂に命じた。
「まず大臣(おおおみ)だ。大臣をさがしだせ」
入鹿(いるか)亡きいま、大臣の蘇我蝦夷(そがのえみし)さえ討てば、すべては終わる。
逆にもし蝦夷の逃亡をゆるすようなことになれば、蘇我打倒の戦いは長びき、内戦に発展しかねない危険性をはらんでいる。
勝麻呂によって兵がよびあつめられ、ふたたび散った直後である。
鎧(よろい)をつけず普段のままの姿で、一人の男が兵に追い立てられて出てきた。
衣の袖(そで)が黒く焼け焦げてちぎれている。髪は乱れ、顔に大きな火傷があった。
男は大事そうに数巻の豪華な書巻をかかえていた。
「なんだ、この者は」
勝麻呂がいった。
「巻物(まきもの)をもって隠れていたので、ひっぱりだしてきました」
兵が答えた。
「何者だ、名をもうせ」
「船恵尺(ふねのえさか)、姓(かばね)は史(ふひと)にございます」
軍事にはまったく縁のない帰化系の文官である。
「かかえているのは、それはなんだ」
勝麻呂は関心のない顔できいた。
男はにわかに姿勢をただした。
「もうしあげる。これぞかの聖徳法王(しょうとくほうおう)(聖徳太子)のご発議により編纂(へんさん)された天皇記(てんのうき)、国記(こっき)の史書であります」
声をふるわせて答えるのをみて、勝麻呂は鎌足のほうをふりかえった。兵は使えるが学のない勝麻呂には、天皇記、国記といわれても、なんのことかわからない。