ニュース: 文化 RSS feed
【青雲の大和】(118)決行 (1/2ページ)
このニュースのトピックス:青雲の大和
「蘇我(そが)の臣(おみ)の警護につけ」
勝麻呂(かつまろ)が命じた。
「はい」
子麻呂(こまろ)は剣をいったん木箱のなかに納め、参内してきた入鹿(いるか)をまもる偽りの任務につくべく、網田(あみた)とともに控えの間をでた。
「もっと、かしこまれ。腰を低く、なんという面(つら)だ」
青ざめた顔で眼をぎらつかせている網田に、勝麻呂が声を殺して叱咤(しった)した。
網田は黙って頭をさげた。
勝麻呂を先頭に、三人は入鹿がはいってくる回廊のわきに並んで平伏した。
やがて三人の頭のさきを、黄金の大刀を帯びた入鹿が、蘇我の権勢をみせつけるように進んでいった。
鎌足(かまたり)は一歩さがって入鹿の後ろにつき、両脇を入鹿の従者である二人の屈強の蘇我ものが固めている。
この二人は三韓進調(しんちょう)の式典のあいだ、正殿の外で待機するものとみられる。もし、子麻呂らが入鹿を討ちそんじれば、勝麻呂はこの二人とともに襲いかかってくるのかもしれなかった。
入鹿と鎌足が通りすぎると、勝麻呂は立って回廊のそばの玉石が敷きつめられたうえを警戒するように歩み、それに倣(なら)って子麻呂、網田がつづいた。
とにかく正殿の聖域に入鹿を誘いこんでしまえば、ことは成るという計算だが、それを確実にするためにはもう一つ、最後の仕掛けが必要だった。
入鹿が正殿の入り口に近づいたとき、わきからするすると珍妙な姿をした者があらわれでた。入鹿のお気に入りの俳優(わざひと)である。
子麻呂は思わずまえへ出ようとした。勝麻呂が眼で抑えた。
俳優は入鹿のまえで、ひょうきんな仕草をはじめている。胸元で赤い派手な帯を前結びにし、だぶだぶの白袴(しろばかま)に赤ひもを巻きつけた滑稽(こっけい)な姿に、入鹿が上機嫌で笑っているのがみえる。