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【青雲の大和】(117)決行 (1/2ページ)
高向国押(たかむこのくにおし)は蘇我(そが)勢にありながら、任務に忠実な高潔な人物として知られている。
斑鳩(いかるが)の宮で蘇我兵の襲撃をうけた山背大兄(やましろのおおえ)が生駒(いこま)山中に逃れたとき、入鹿(いるか)が国押に追討を命じたが、
−−わたしの職務は皇居を守ることである。
としてはねつけた話は、末端の部下である子麻呂(こまろ)らをよろこばせた。
しかし、根がまじめなだけに融通のきかないところがある。勝麻呂(かつまろ)が懸命になってなだめようとしているのも、そのためだった。
「大君がまもなく出御されるというのに、剣を隠しもって、このようなところにたむろするとは、なにごとであるか」
厳しくとがめだてようとするのを、
「いや、いや、これにはわけがあって、いましばらくのご容赦を」
と、勝麻呂は抑えるのに必死である。
「わけがある? どんなわけだ、もうしてみよ」
瞬間、子麻呂のそばで網田(あみた)が剣をつかみ、腰を浮かしかけた。
「やもえん、ここへひきいれて斬る」
小声でいった。
「待て、はやまるな」
子麻呂はひきとめた。
外では声を押し殺した勝麻呂の釈明がつづいている。
「ことの性格上、表ざたにできませぬが、わたしどもは無視できかねる不穏な情報をつかんでおります」
「なに、不穏な情報だと?」
「さよう、きょうの三韓進調(しんちょう)の儀を機会に、韓者(からもの)が入鹿どのを襲うというのです」
「なにをばかな。なぜ、韓者が入鹿どのをねらう」
「いや、これは前(さき)の三韓勅使、津守(つもり)どのがさる筋からつかんでこられたものでありまして、新羅(しらぎ)の後押しをされている入鹿どのを倒すため、百済(くだら)の刺客が式場にもぐりこむ恐れがあるというのです。この話は鎌足どのを通して、すでに蘇我の臣(おみ)の耳にはいっておりますれば、われらはとくに命じられ……」