ニュース: 文化 RSS feed
【青雲の大和】(115)決行 (1/2ページ)
このニュースのトピックス:青雲の大和
鎌足(かまたり)がみずからはじめて明かした二重の策謀をききながら、子麻呂(こまろ)は頭を垂れてしまっていた。心は暗澹(あんたん)として打ちのめされたようになっている。
「それではわたしどもの名誉は、いかなることになるのでございましょうか」
網田(あみた)が顔を蒼白(そうはく)にしてきいた。
もし入鹿(いるか)を討ちそんじたら、二人は百済(くだら)に買われた刺客というあらぬ罪を着せられ、誅殺(ちゅうさつ)されるというのである。大義をもって蘇我(そが)打倒に決起した身が、百済に買収された卑劣な凶漢に変えられてしまうのであれば、死んでも死にきれるものではない。
「われを信じてくれ」
鎌足はいった。
「かならずや、皇子(みこ)を奉じ蘇我打倒をはたして、きみらの志にむくいてみせる。皇子とともに打ち立てる新しい理想の国にあっては、二人は改新の礎(いしずえ)となった義士として、永遠に称えられるのである。それまでのわずかのことだ。ほんのわずかのあいだ、敵をあざむくため不名誉にあまんじてほしいのだ」
「それがいやなら、われを斬れ」
よこから勝麻呂(かつまろ)が立ちあがってきていった。
「まえにいったとおり、われを倒して逃げおおせるのだ。ただし、手加減は無用にせよ。われを憎み、われを殺して逃げるのだ。でなければ、墟がみえてしまう。いいか、殺すか殺されるかだ。それでこそ、ひとは信じる」
網田は怒りにもえるような眼をすえて、床をにらみつけている。頭では理解できても、無念の思いを抑えきれないのである。
「もうひとつ、これも二人には明かすまいと思ってきたことだが、そのとき正殿の外で百済大使の縁福(えんふく)という者が命を絶たれることになっている」