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【青雲の大和】(114)決行 (1/2ページ)
子麻呂(こまろ)に叱声(しっせい)をあびせてから、勝麻呂(かつまろ)は、
「さ、これで流しこめ」
と、舎人(とねり)が置いていった水差しを突きだし、子麻呂のもつ椀(わん)に冷めた白湯(さゆ)を注ぎいれた。
ここで怯(ひる)ませてはまずい、とみたのか、やさしげな口調に変えている。
子麻呂は黙って白湯漬けの飯(いい)をのどに流しこむと、かたちばかり頭をさげた。勝麻呂に謝意をあらわしたつもりである。
かたわらでは網田(あみた)が、同じく白湯漬けを眼をつぶるようにしてかきこんでいる。
二人のようすをみつめていた鎌足(かまたり)が、このとき静かに口をひらいた。
「決行をまえにして、このようなことをもうすのはいかがなものかと思うが、ここ正殿にまで敵をひきいれてしまえば、もう安心である。蘇我(そが)がいかに強大な権力を有していようと、ここでは入鹿(いるか)を助ける者はだれもいない。つまりおまえたちが日常まもっている皇居正殿に、敵が一人で乗りこんできたと考えればいいのだ。朝敵は討つ、これは任務ではないか。おまえたちは任務をはたそうとしているだけであって、おびえることはなにもない」
諄々(じゅんじゅん)と説かれて、子麻呂の心はしだいに落ちつきをとりもどしてきていた。
そういえば、こちらは屈強の網田と、東国の剣術を習得している子麻呂の二人、敵は大刀を実際に使ったこともないであろうひよわな男一人である。
「であれば、敵を討ちそんじることはないと確信しているが、万が一、ことが敗れたときのことを話しておかねばならない。そのとき、二人には死んでもらう」
「なぜですか、なぜわたしどもは……」
一瞬のまをおいて、網田がはげしくせきこむように問いかけた。
「勝麻呂どのにもいわれました。なぜ、わたしどもは死なねばならないのでしょうか」