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【青雲の大和】(110)最後の誠意 (1/2ページ)
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押し殺した鎌足(かまたり)の声が、六月の暑気がたまる広間の空気をふるわせて流れていく。
外へきこえているはずはなかったが、気配で察したのか、入鹿(いるか)のお付きの者が二人、気遣(きづか)わしげに入ってきて主座から離れたところにひざまずいた。
「汝(いまし)らは外でひかえておれ」
入鹿が怒鳴りつけた。
二人は黙って立ち、ならんで一礼して戸口から消えた。
「鎌足よ、われに言いづらいことをそこまでよくいってくれた」
そのことばに、鎌足はあっけにとられて主座をみあげた。
鎌足が述べた蘇我批判は、遠まわしといったものではなかったはずである。裏をさぐるまでもなく、蘇我を倒そうとしている鎌足の底意がありありとみえるはずである。
しかし、入鹿はいまになってもなお、鎌足が蘇我のために忠告してくれているものと思いこんでいるのである。屈辱で赤らんだ顔は、蘇我内部に敵がいたことを知らなかった悔しさのあらわれであって、そこには鎌足への敵意はふくまれていない。
「まず、われらがいま為さねばならぬことは、蘇我の内なる敵を洗いだし、殲滅(せんめつ)することだ」
入鹿は屈辱をふりはらっていった。
「鎌足が信義があって、その者どもの名をあかせないのなら、それでよい。われに知らせてくれただけで、じゅうぶんだ。その気になれば、三日もあれば洗いだせる」
そのことばを鎌足は顔を伏せてきいていた。
三日では遅いのである。
いや、二日でも遅い。決起は明後日にせまっている。
「それより蘇我が皇位を奪うことについてはどうなのか。ここではっきりと撤回することを明言してもらわねばならない」