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【青雲の大和】(109)最後の誠意 (1/2ページ)

2008.2.25 19:04
このニュースのトピックス青雲の大和

 そのとき入鹿(いるか)の眼が、いびつな色を帯びて光りだしているのに鎌足(かまたり)は気づいていた。

「おい、われを誹謗(ひぼう)している蘇我(そが)の者とは、だれだ」

 鎌足の説得には関係なく、はじめて知る内部の敵の存在におどろき、神経をとがらせているようすである。

 これまで鎌足を信じて耳を傾けていた入鹿だったが、いまは猜疑(さいぎ)のかたまりのような本性をあらわにしつつあった。

「それは、いえない」

 鎌足は突きはなした。

「なぜだ。鎌足がわれにあかせないというのか。なぜあかせぬ」

「あかすと、あなたはそれらの者を攻め滅ぼすだろう。蘇我は混乱におちいるだけではないか」

 鎌足は巧みに焦点をぼかしていった。

 蘇我の分家、山田麻呂(やまだのまろ)や蘇我勢の大物、巨勢徳太(こせのとこだ)を打倒蘇我の陣営にとりこんでしまっているのを、決起をまえにしたいま、入鹿に感づかせてはならなかった。

 入鹿は腕を組み、鎌足に射るような視線をむけたまま考えこんでいる。鎌足に対する信頼がゆれはじめているのは、その暗い瞳をみてもわかった。

「鎌足よ、汝(いまし)、まことにわれのためにやってくれているのであろうな」

 陰気な声をしぼりだすようにいった。

「いや、誤解されてはこまる。わたしがやっているのは、あなたのためではない」

 はっきりと、鎌足は答えた。騙(だま)すつもりなら、いまでもまだ騙せると思う。しかし、入鹿を騙すために、決起の二日まえというぎりぎりのこの時点で蘇我邸に乗りこんできたのではなかった。

「ふむ、われのためではない、というのだな」

 鎌足から突きつけられた答えが、入鹿はまだ信じられない顔つきである。

「われのためでないなら、いったいだれのためだ」

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