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【青雲の大和】(108)最後の誠意 (1/2ページ)
−−わが門下で学業、蘇我(そが)の太郎に如(し)くはなし。
と、そのように話された旻(みん)師のことばを鎌足(かまたり)は思い起こしていた。師の学堂で図抜けた学績をしめした入鹿(いるか)は、いま驕(おご)りたかぶって、蘇我革命をやろうと学友の鎌足にもちかけているのである。
「これも師の話だが、唐帝李世民(りせいみん)は、敵であれ味方であれ、あらゆる人材をまわりにあつめ、その知恵と力によっていまの唐の繁栄をきずいたということだ」
鎌足がなにを考えて蘇我邸に乗りこんできたのかも知らず、入鹿は皇位を天皇家から簒奪(さんだつ)する構想を話しつづけた。
「ひるがえってわが蘇我勢をみるに、有能な人間が一人もいない。どれもこれもぬけさくばかりではないか。あのような者どもを使わざるをえないとしたら、われが帝位についてもなにもできはしない。この世でわれが信頼するのは、鎌足ただ一人。どうだ、宰相になって腕をふるってくれないか」
いわせるだけ、いわせておいて鎌足はおもむろに口をひらいた。
「はっきりともうしあげよう。わたしは大和にあっては天皇(すめらみこと)を護(まも)りたてまつる立場にある。したがって、革命には反対である」
入鹿は意外なことをきいたという顔で、鎌足をみた。
「天命革(あらた)まる、といえばきこえはいいが、現実はどうであるか。民が百万、二百万と死んでいく隋末期の惨状を、旻師はなんどもなんどもわれらに話してくださったではないか。師のお考えは、はっきりしている。天下を騒乱におとしいれる革命は、この大和ではあってはならないということだ」
「いや、それはちがう」
入鹿はあわてぎみにいった。
「あれは隋の煬帝(ようだい)がひどかったからだ。われは帝位についても、あのような悪逆はやらない。というより、やる理由がない」