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【青雲の大和】(102)最後の誠意 (1/2ページ)
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山田麻呂(やまだのまろ)の長女、造媛(みやっこひめ)とは、この部屋で一度会ったきりである。中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)の妃(みめ)に召しいれる政略結婚の申し入れにきたとき、父に伴われて、鎌足(かまたり)のまえに姿をみせた。その憂いをふくんだ翳(かげ)のある美しい面だちは、あれから半年がすぎたいまも鎌足の眼に焼きついている。
「そのようなことであれば、わたしとしてはなんとか考えなければなりませんな」
鎌足はいった。もし、鎌足の策謀が彼女の不幸を招いてしまったのであれば、できうるかぎりのことをしてやらねばならない。
中大兄と鎌足がねらうのは、蘇我(そが)を打倒し新しい理想の国家を建設することである。しかし、めざすものが崇高であれば、女の幸せなどふみにじっていいというものではない。策謀をやりぬくには、その裏に誠の心がなければならないのである。
「おことばはありがたいが、もうとりかえしのつくことではありますまい」
山田麻呂は皇子(みこ)から決起を告げられた衝撃をひきずったまま、力なくいった。
「いや、長女(えひめ)はまだお若い。なんとかなるようにすれば、なります」
「と、もうされると……」
「たとえば、あの磯城嶋(しきしま)の大君(欽明天皇)ですが、蘇我の姉妹をともに妃にされ、生まれたお子のうち小治田(おはりだ)の大君(推古天皇)のほかお二人が即位されているのは、ご承知のとおりです。もし、皇子がおゆるしになればの話ですが、そのような方途もないではありません」
鎌足がそういうと、麻呂はわずかに喜色をみせつつも、
「しかし、皇子がおゆるしになるはずがないではありませんか」
といった。
「いや、わかりませんよ。皇子はあのように闊達(かったつ)なご性格で、ものごとにこだわらない方だから」