ニュース: 文化 RSS feed
【青雲の大和】(99)最後の誠意 (1/2ページ)
皇居板蓋(いたぶき)の宮でおこなわれる三韓進調(しんちょう)の儀で、鎌足(かまたり)が立案した式次第では、中大兄(なかのおおえ)は正殿での式典に臨席することになっていた。
主謀者の鎌足としては、この方がやりやすいのである。万が一、ことが敗れたとき、中大兄を表に立てておけば、関与を否定することができる。逆に正殿の裏舞台で動きまわっていたとなると、嫌疑がかかるのを避けることができず、いかなる場合にも中大兄を守りきるという、鎌足がみずからに課した絶対的な条件を果たせなくなる恐れがあった。
しかし、中大兄自身がこれに反対した。理由はふたつある。
皇居正殿では、皇族であっても佩刀(はいとう)はゆるされていない。それに対し大臣(おおおみ)の資格をもって出てくる蘇我入鹿(そがのいるか)はただ一人、天皇のまえでの佩刀をゆるされている。
−−これでは、いざというときわれは動きがとれないではないか、
というのである。
いまひとつの理由は、やはり果敢な性格からくるのであろうが、国家の命運がかかっているこの歴史的な大事に、
−−われが指揮を執らずにおれるか、
というのだった。
鎌足自身は智謀にたけてはいるが、陣頭に立って瞬時に判断をくだしつつ戦うといったことにはむいていない。それは英雄的資質にめぐまれた中大兄の役割であるのかもしれなかった。
「さて、式にお出にならないで、皇子(みこ)は当日、なにをなさっているのだろうか」
鎌足の説明がよくわかっていない山田麻呂(やまだのまろ)は、とまどいの色をうかべて執拗にきいてくる。入鹿が皇位につけようとしている古人大兄(ふるひとのおおえ)が正殿の表舞台に立つのにたいし、娘婿(むすめむこ)である中大兄の立場が気になるのである。
「それについては、これから皇子ご自身が話をされます。ことは重大であり、心してうけたまわるようにお願いしたい」