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【青雲の大和】(95)契りの朝 (1/2ページ)
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瞬間、佐保(さほ)はおびえたように眼をみはり、子麻呂(こまろ)をみた。もう追っ手がきた、と思ったようだった。
「いや、心配することはない、飛鳥の同僚だ」
子麻呂が立って行こうとしたとき、庵(いおり)の戸口から、当の網田(あみた)が肉太のひげ面をぬっと現した。
「これはこれは、お楽しみのところをおそれいる」
網田は大まじめな顔をつくって、佐保にむかって低頭した。
「おい、どうしてここがわかった」
子麻呂のほうがあわてていた。
「そりゃ、わかるさ」
網田はそういって、佐保に顔をむけ、
「曽禰(そね)の媛(ひめ)、佐保どのですな」
と、その若いなよやかな体を大きな眼で無遠慮になめまわすようにみた。
佐保が身をすくめるようにすると、
「この男はね、あなたのことを自慢したくて、わしになにもかもしゃべってしまったんですよ」
と、武骨なひげ面をゆがめて笑った。
「おれがなにをいった」
「いったじゃないか、佐保どのがどんなにかわいくて、やさしいか」
「うそをつけ、そんなことをいったか」
「まあ、それはいいが、春日(かすが)の山から流れてくる佐保川の名をとって、名づけられたやさしい乙女子(おとめご)だといった。曽禰氏の里で佐保川に近いところといえば、もう捜すことはない、ここに決まっているじゃないか」
決起をまえにして消えた同僚を追って、網田はまっすぐこの里へ駆けつけてきたというのである。
「それで、なんの用だ」
子麻呂は少し気負っていった。逢瀬(おうせ)の場にふみこまれた弱みをみせたくなかった。
網田はそれには答えず、佐保のほうをむいて、
「まことにもうしわけないが、二人だけで話がしたい。佐保どのには、しばらく座をはずしてもらえないだろうか」