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【青雲の大和】(89)契りの朝 (1/2ページ)
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「なぜでありますか」
子麻呂(こまろ)は広間の壁ぎわにいて、思わず声をあげた。
勝麻呂(かつまろ)の血走った眼が、ぐるりとまわってむけられてきた。
「およばぬながら、わたしは力をつくして敵を討つ覚悟です。しかし、かならず倒せるとはかぎらない。そのときなぜ、われわれはあなたの手にかかって殺されなければならないのか」
「気にいらぬか」
たっぷりと間(ま)をとってから、勝麻呂はいった。
「気にいらぬなら、そのときわれに刃向かい、われを逆討(さかう)ちにすることだ」
意外なことばが広間の底を流れていく。
「われを倒してその場を脱し、逃亡せよ。どこか遠くへ逃げたら、蘇我(そが)の世が終わるまで帰ってくるな。きさまらは敵を討つか、われを殺すか、いずれかでなければ生きられないのだ」
勝麻呂の話していることが、子麻呂にはよくわからない。が、なにか重大な決意をもって、勝麻呂がことに臨もうとしていることだけは理解できた。
「こい、網田(あみた)、なにをしている。きさま、われに殺されたいか」
それをきくと、網田は木刀をかまえ、獣の咆号(ほうごう)のような声を広間にひびかせつつ、突進していった。
激しく木と木が打ちあう音がして、床にぶっ倒れたのは、こんどもまた網田だった。
強い。おそろしく強い。
網田がそのたくましく盛りあがった筋肉で、いかに破壊力のある剣をつかうか、子麻呂はよく知っている。ふつうの人間にはとうてい受けきることはできないはずである。
それを勝麻呂はなんなくかわし、したたかに打ちすえたのである。
「つぎっ、子麻呂、その隅に立て」
勝麻呂は木刀で広間の隅の位置をしめし、
「そこから突進してこい」