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【青雲の大和】(87)契りの朝 (1/2ページ)
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子麻呂(こまろ)の眼には、甘樫丘(あまかしのおか)から皇居板蓋(いたぶき)の宮にかけてのその日の情景がまざまざとみえている。
大臣(おおおみ)の地位を代行する権力者、蘇我入鹿(そがのいるか)が城郭のような自邸をでて、飛鳥川にそった道におりてくる。道の両側は剣と槍をもった蘇我の私兵が立ちならんで、入鹿を警護している。
橋をわたり、槻(つき)の広場を過ぎても、まだ警護の列はつづいているだろう。入鹿はそういう男なのである。臆病というより、いわば完全主義者であって、どこにもつけいる隙(すき)はない。
入鹿自身、あの黄金に輝く大刀をもっている。もしかりに警護の壁を突破して、子麻呂が斬りつけていっても太刀打ちすることは、じゅうぶんに可能である。
これでどこから狙えというのだろうか。
その日、六月十二日は三韓進調(しんちょう)の儀式がおこなわれる日である。子麻呂も網田(あみた)も宮廷警備の公務があって、式の前あるいは直後に、公然と板蓋の宮をはなれることはできない。二人がそろって外へでていくのに、いったいどんな口実をもうければいいのか。
「おれが思うにだな、これはもう破れかぶれの、どうみても勝ち目のない戦いだな」
中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)のもとから退出してきたあと、網田は肉厚の大きな肩を落としていった。
「きっと、われらの命を敵にぶつけてみてだな、それによって戦いのきっかけをつかもうとされているんだ。混乱をまきおこして勝機をつかもうというわけだろう。そうとしか思えんのだ、おれは」