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【週末読む、観る】◇旬を読む◇「鶴の鬱」 情感味わう大人の愉しみ (1/2ページ)
『鶴の鬱』マ(問の口を月)村俊一著(角川書店・3990円)
本を閉じ余韻にひたっていたはずが、またぞろページを繰っている。うまい日本酒のように、シンプルなくせ味わい深い根深汁のごとく、句集『鶴(つる)の鬱(うつ)』は妙に後を引く。
天上に瀧(たき)見しことや鶴の鬱
マ村俊一はこの作品で俳人デビューを果たした。だが彼は、五・七・五という極めて小さく、狭い酒樽(さかだる)に言葉を封じこめたのではない。情景と感情を冷静に見つめ、切り取るだけでなく大胆に解き放つ。ときに顔を出すリリシズムも鮮烈だ。そんなマ村の詩心を酵母にして、滋味あふれる句の数々が醸された。
春晝(しゅんちゅう)の鳥類圖鑑(ずかん)出奔す
弟の幽靈(ゆうれい)も來(き)て蓬(よもぎ)摘む
1ページに1句ずつ配されたレイアウトは、凛(りん)とした清(すが)しさを漂わせながらどこか妖(あや)しい気配を内包している。つたの絡まる洋館に迷い込んでしまったような、ときめきとスリルを覚えるのは私だけでなかろう。
読み進めるうち、すべて旧仮名遣い(正字)で表現された日本語の奥深さに引き込まれ、その破壊力に打ちのめされるのも本書の醍醐(だいご)味だ。ひしめく漢字、仮名の字体は、それぞれがジジむさい威厳ではなく、端正かつあえかな色香を放っている。
だからこそ、本書の持つ“ビジュアル書”としての側面は捨てがたい。マ村がすでに一流の装丁家として名を成していること、画集『ジョバンニ』(洋々社)を上梓(じょうし)している点を加味すれば、この処女句集に貫かれた美学もうなずける。
加えて、随所に散りばめられたエロティシズムが気を惹(ひ)く。マ村の句から滲(にじ)む豊艶(ほうえん)なイメージは現実と交差し、読む側を日常と非日常のボーダーラインに誘い込む。
人妻にうしろまへある夕立かな
伯母とゐて蛇といふ美しきもの
晝顏(ひるがお)にをんなの長きゆまり哉


