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【青雲の大和】(79)死を賭して (1/2ページ)
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−−これで縁福(えんふく)は騙(だま)しおおせた。
と、津守(つもり)はみた。
百済(くだら)の大官、縁福の細い切れ長の眼には、津守の能力を疑い見下そうとする色は浮かんでいるが、猜疑(さいぎ)の気配はいっさいない。
おそらく「期日は追って知らせる」とした六月のある日、縁福が百済の調(みつぎ)を従者にはこばせて、皇居板蓋(いたぶき)の宮の正殿のまえに姿をみせるであろうことは、まちがいない。
しかしそのとき、隠されたもう一つの役を演じさせられていることについては、この男はなにも知らないのである。
この男が知らないまま、すべてが終わればそれでよし、もし自分が演じさせられている役に彼が気づくような事態となれば、即座に殺すしかない。「死人に口なし」のかたちをつくるためである。
そのときの皇居正殿の修羅場のもようを、津守はありありと眼に浮かべることができる。
この日、正殿の殿上でなにが進行しているか、津守は知っているが、この男はもちろんのこと、式典のため朝庭(ちょうてい)に参列する官人らのだれもが知らない。
やがて殿上から合図が送られてくる。成功ならばそのまま。ことが敗れたとなると、津守はとびだして行って、偽りの罪状を高らかに叫びながらこの男を刺し殺さなければならない。
−−この韓人は百済の敵、新羅(しらぎ)を倒すため、新羅支援の政策をとりつづける大和の重臣を、宮廷警備員を買収して暗殺しようとしたのである、と。
そのころ殿上では、宮廷警備員二人が斬り殺されている。罪はすべてこの韓人と二人の警備員に着せられ、ことはかろうじて収まるという筋書きである。
いま、この筋書きにしたがって動いているのは、津守のほかでは二人しかいない。筋書きをつくった主謀者と、その主謀者が奉ずる若き皇族である。