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【青雲の大和】(76)死を賭して (1/2ページ)
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「やあ、やあ、よくきてくれた」
王子余豊(よほう)は気さくに声をかけてきた。いささか軽薄な感じのする口調である。
背は津守(つもり)より高い。人質とはいえ、なに不自由のないのんきな暮らしをしているせいか、よく肥えて顎(あご)のあたりの肉が二重になっている。
「なにしろ、三韓にひびきわたる津守の連(むらじ)どのだ。ここはおおいに歓待せずばなるまい。いやいや、じつをいうとわたしはさびしいのだよ。ふだん、だれもここまできてくれないのでな」
津守になにをいうまもあたえない饒舌である。故意にやっているのか、それともこれが性癖なのか、いずれにしても百済(くだら)の王位を継ぐことになるかもしれない立場からすれば、軽すぎるといわざるをえない。
余豊が大和へきて、もう十五年にもなる。その間、百済では祖父、武(ぶ)王が亡くなり、父があとをついでいまにいたっている。本国には太子である兄の余孝(よこう)ら四人の兄弟がいるが、どういうわけか弟の一人、塞上(さいじょう)は人質でもないのに大和にきたまま、ずっと兄、余豊のもとで暮らしていた。
おそらくなにかの理由で本国の王族に疎んじられているのであろうが、そのあたりの事情をいくら調べても、津守にはほんとうのところがつかめず、したがってこの作戦に塞上を利用することはできない。
初対面にかかわらず、余豊の饒舌はとりとめもなくつづいている。津守が辟易(へきえき)していると、やっと気づいたふりをして、
「さあさ、それでは津守どのにわが自慢の蜜蜂の巣をみていただこう」
と、とんでもないことをいいだした。
あらかじめ命じてあったのか、余豊が話しおわらないまに従者があらわれ、
「どうぞ、こちらへ、どうぞ」