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【青雲の大和】(62)政略の夜 (1/2ページ)
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鎌足(かまたり)自身が仲人(なこうど)となって、中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)と蘇我(そが)の分家、山田麻呂(やまだのまろ)の長女との婚姻がととのい、ほっと一息ついた夜だった。
鎌足がひさしぶりに自邸で、妻の与志古(よしこ)とともにくつろいでいると、母屋の玄関口から訪(おとな)いの声がきこえた。
「蘇我倉山田(そがのくらやまだ)さまからの使いにございます」
応対にでた家人のひとりが、小走りにかけてきて告げた。
「いまごろ、なにごとだろう」
鎌足は妻にいって、みずから立って玄関に出て行った。
灯火のとどかない暗がりに、使いの男が立っている。
「もうしあげます」
鎌足の姿をみて、男はいった。
「夜分、まことに恐れ入りますが、いま一度おこしねがいたいとのことでございます」
「いま一度? われに、か」
信じられないことである。
「中臣(なかとみの)鎌足さまでございますね」
「そうだが」
「ぜひに、と主(あるじ)がもうしております。馬を用意させていただきました。外でお待ちします。よろしくおねがいいたします」
なにかわからなかったが、異変が起きたことだけは確かだった。
「どうなさったの」
妻が顔をくもらせ、心配そうにきいた。
「いまから山田へ行く。今夜、帰らなかったら、佐伯(さえき)と若犬養(わかいぬかい)に連絡をとって、すぐきてもらってくれ」
そのとき鎌足がばくぜんと思ったのは、蘇我宗家からなんらかの圧力が掛かり、配下の者が私兵をつれて山田に押しかけているのではないかといったことだった。であれば、鎌足邸にも累(るい)がおよぶ恐れがあり、鎌足の護衛役をやってくれている佐伯と若犬養をよんで、妻、与志古と三歳になる真人(まひと)をまもらせる必要があった。