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【青雲の大和】(41)槻の広場で (1/2ページ)
接見の広間には、古人大兄(ふるひとのおおえ)の側近三人が後方に侍していた。いまだ無冠の鎌足(かまたり)に会うのに、古人大兄はなぜこうも仰々しく側近を顔見せのようにならべたのか。
おそらく鎌足の背後に権力者、入鹿(いるか)の眼があるとみたからにちがいなかった。鎌足が入鹿の意をうけて、古人大兄のもとへのりこんできたものと誤解したのである。
側近の筆頭は田口川掘(たぐちのかわほり)、蘇我系氏族の当主である。
ついで朴井椎子(えのいのしいのみ)、武門の物部(もののべ)系らしく武骨な顔に陰険な眼を光らせている。
ただひとり、鎌足が面識があるのが三人めの吉備笠垂(きびのかさのしだる)で、古くは吉備の国(岡山)を本拠とする由緒ある皇族系の氏族だったが、いまは没落して大氏族の走り使いのようなあつかいをうけている。
鎌足にとって警戒すべきは、やはり蘇我系の田口川掘だった。おそらく入鹿は古人大兄を自陣にひきいれるさいに、田口を側近に押しこんだにちがいなかった。鎌足がここでしゃべることは、そのまま入鹿の耳にはいるとみて、まずまちがいない。
しかし、鎌足はそれを少しも恐れていなかった。蘇我入鹿という権力者のうわべではなく、人間としての本質的なところをつかんでいる自信である。
たとえ田口なる者が、鎌足が話したことを悪意にねじまげて入鹿に報告したとしても、入鹿はそんな情報をまともにうける人間ではなかった。あくまでそれは、鎌足が入鹿のために古人大兄に仕掛けたことにすぎないと思うにちがいない。
したがって鎌足は、古人大兄のまえでどんな策謀を弄(ろう)することもなく、本心から大和の国家のありかたの抜本的改革について、あるいは大氏族の解体にかんしてさえも、堂々と自説を展開することができたのである。
気がつくと、古人大兄の細面(ほそおもて)の頬のあたりが微妙にふるえていた。
「汝(いまし)それ、蘇我の太郎の考えであるのか、それとも……」