ニュース: 文化 RSS feed
【青雲の大和】(27)入鹿と鎌足 (1/2ページ)
このニュースのトピックス:青雲の大和
「なにごとだ」
入鹿(いるか)は立ちあがった。かん高い声が学堂の板壁に跳ねかえってひびいた。
「もうしあげます」
駆けこんできた蘇我(そが)の従者はひざをつき、入鹿をみあげていった。
「生駒(いこま)山中に山背大兄(やましろのおおえ)の姿をみた、との急報がありました」
「なに、生駒だと。一人か」
「いえ、ご一族ともであります」
入鹿のもえるような瞳が鎌足(かまたり)にむけられてきた。
「知っていたんだな」
鎌足はだまって眼でうなずいた。
「なぜ、いわぬ」
「だから、わたしは大兄皇子(おおえのみこ)を弑(しい)することに反対であるともうしあげたはずだ。蘇我のためにもならぬこと、ここは退(ひ)いてもらいたい」
鎌足には、山背大兄がすでに生駒の山を下(お)り、深草(ふかくさ)の屯倉(みやけ)にむかっているという確信がある。もし鎌足の献策を側近の三輪文屋(みわのふみや)からきいて、すぐ行動をおこしていたら、深草から東国の美濃(みの)へ馬で発(た)っていてもおかしくないころである。
おそらく生駒で山背大兄をみたというのは、数日まえのことであろうと、鎌足はその点では余裕をもって報告をきいていた。
「いや、せっかくの鎌足の忠告だが、ききいれることはできない。蘇我には山背を亡き者にしなければいられない理由があるのだ」
入鹿はそういって、ひざまずいている従者をうながし、学堂から出て行った。
やがて入鹿が、外にひかえる蘇我の者に山背大兄追討の指令を発しているのがきこえてきた。
「再度、兵を挙げ、ただちに生駒山中にむかえ。兵数は同じく三百、将は高向国押(たかむこのくにおし)の臣(おみ)とする」