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【青雲の大和】(25)入鹿と鎌足 (1/2ページ)
そう言い切っても、なお入鹿(いるか)は鎌足(かまたり)が自分に敵対してくるとは、つゆほども思っていないらしく、胸のうちまでさらけだすように話した。
「それはそれとして、われが山背大兄(やましろのおおえ)を生かしておけないのもわかるだろう。父(聖徳太子)ほどではないが、山背もそこそこ人望はある。大兄皇子(おおえのみこ)とよばれるのだから皇位継承権ということになれば、まちがいなく三位までには入る。その山背が父の霊を背にわれに対抗して兵をあげれば、どういうことになるか。かさねていうが、天下は二分され、大乱になるおそれが多分にある」
だから蘇我(そが)としては、山背大兄を生かしておけないというのだが、そのあけっぴろげな話ぶりに、鎌足のほうがたじろいでしまうほどである。
蘇我入鹿とは、こういう男なのだということをあらためて感じざるをえない。疑りぶかいくせに、いったん信じた者にはどこまでも心をゆるしてしまうのである。
いつだったか、旻師(みんし)が講義のなかで隋の二代目、煬帝(ようだい)について話されたことがあったが、入鹿の平衡感覚のとぼしい片寄った性格は、あの独裁者煬帝に似ていなくはない。おそらく入鹿もまた、いささか小ぶりながらも独裁者たる資質がじゅうぶんに備わっているのかもしれない。
鎌足を信じきって、入鹿がながながと話したなかで、鎌足を心底、驚愕(きょうがく)させたことがひとつあった。
「山背大兄が兵をあげるといっても、斑鳩(いかるが)の宮にこもっていてくれるのならいい」
入鹿は笑みを浮かべながらそういった。
「斑鳩にいるかぎり、こんどの措置のようにすばやく襲い、包囲殲滅(せんめつ)すれば、乱に至るまもなくことは終わる。しかし鎌足よ、よくきいてくれ。いいか、もし山背大兄が東国の壬生(みぶ)に逃げこみ、天下に戦いを宣するようなことになると、もはや大乱は必至である。なんとしても、この事態だけはふせがねばならないのだ。わかってくれるか、鎌足」