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【青雲の大和】(20)入鹿と鎌足 (1/2ページ)
蘇我(そが)が先帝(舒明(じょめい)天皇)の皇子、古人大兄(ふるひとのおおえ)を皇位につけたがっているのは、鎌足(かまたり)も知っている。
古人大兄は母方でいえば蘇我系で、あの馬子(うまこ)の娘の子、つまり孫である。
しかし、同じことは山背大兄(やましろのおおえ)にもいえるのであって、母方では山背大兄もまた蘇我馬子の孫である。
入鹿(いるか)からみれば、どちらも従兄弟(いとこ)であるが、それでいて、なぜ古人大兄は皇位につけ、山背大兄は死に追いやらねばならないのか。
入鹿の答えはこうである。
「山背大兄がこの世に存在するかぎり、天下大乱の火だねは消えない」
「天下大乱? それ、どういうことか」
鎌足は思わず問いかえしていた。なにごとも慎重に考え、論理の筋をきっちりと立てて話すのがつねであるが、入鹿の答えが思いもよらなかったため、ついかき乱されてしまったのである。
「鎌足には、すべてを話そう」
入鹿はいった。たがいに畏敬(いけい)しあっていた二十歳(はたち)のころの関係がもどってきているのを鎌足はむろん、入鹿も感じている。
「いまの大君、鎌足はどう思うか」
「どう思うとは?」
「つまり天皇(すめらみこと)にふさわしいかどうか、だ」
先帝の皇后(きさき)であった大君(皇極(こうぎょく)天皇)が即位されて二年になるが、世がうまく治まっているとはいいがたい。蘇我の力があまりにも強大で、天皇による政(まつ)りごとといえるものは、皇居板蓋(いたぶき)の宮が建てられたことを除けば、皆無にひとしいのが実情である。
「大后(おおきさき)を天皇に奉戴(ほうたい)したのは、蘇我ではなかったのか」
鎌足は逆にきいた。
「そう、父だ」
入鹿はあっさりとみとめたうえで、
「したがって父蝦夷(えみし)が身をひいたいまは、われが決める」
といった。
「なにを決めるというのだ」
「わからぬか、あたらしい大君を、だ」