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【青雲の大和】(3)急襲 (1/2ページ)
鎌足(かまたり)の母、大伴(おおとも)夫人からいただいた高価な巻絹(まきぎぬ)をもって、子麻呂(こまろ)は皇居板蓋(いたぶき)の宮にもどった。
日が暮れ、夜の寒気がしのびよるなか、皇居の庭のあちこちに赤々とかがり火が焚(た)かれている。
「おい、あした、三島(みしま)へいくぞ。大伴夫人に命ぜられた」
子麻呂は同僚の網田(あみた)を南門の詰め所からひっぱりだして告げた。
「三島? なんの用だ」
「鎌足どのをよびもどしてもらいたい、ということだった。夫人は急いでおられる」
「よし、おれも行く」
網田は詰め所にもどろうとした。
「しかし、勤務をどうする」
「そんなものなんとでもなる。連れて行ってくれ」
網田が行きたがるのには、わけがあった。
二人はともに、皇居の門衛の長といった役どころで、四、五人をしたがえ、宮門をまもっているが、朝廷における地位は無冠の衛士(えじ)とかわらないほどひくい。
この十月三日には、地方勤務の者もふくめて、すべての官人が皇居にあつめられ、あらたな人事が発令されたが、二人とも現状のまま据えおかれ、昇任、昇格の沙汰はなかった。
むろん、人事のすべてをにぎっているのは蘇我(そが)勢である。大君の詔勅は形式上のことにすぎない。であれば、蘇我に縁のない二人はいつまでたっても、うだつがあがらないことになる。
対して、中臣(なかとみの)鎌足とともに天下国家のためにはたらくという宮廷外での役割には、大きな夢があった。鎌足がなにを成そうとしているのかは、いまだ知りえないものの、もし鎌足が国家の中枢にすわることにでもなれば、たちまち二人に輝かしい未来がひらけてくるというものである。
「いやいや、網田、急ぐからこんどはおれ一人でいい。大伴の馬を借り、ひとっ走り行ってくる」
子麻呂はそういって、肩にさげた袋から巻絹をひと巻き(一反)とりだし、網田にあたえた。