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【青雲の大和】(2)急襲 (1/2ページ)
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佐伯子麻呂(さえきのこまろ)が大伴(おおとも)夫人の館(やかた)に出入りするようになったのは、この夏四月、皇居板蓋(いたぶき)の宮が完成し、大君が仮宮(かりみや)から移られたころからである。
夫人が実家の大伴氏の者を動かし、とくに武術にひいでた若手で、任務に忠実な者二人をえらびだして配下に入れたのだが、その一人が子麻呂であり、あと一人が同僚の若犬養網田(わかいぬかいのあみた)であった。
夫人のねらいは子息、中臣鎌足(なかとみのかまたり)の身辺警護だが、それとともに、鎌足が国家のためになにか大志をもってことを成そうとするとき、手足となって働いてくれるように、との願いをこめた人選だった。
鎌足自身はいま、その大志の実現にむけて構想をねるため、摂津(せっつ)の三島(みしま)にある別業(べつぎょう)(別邸)にこもっている。
「三島へまいりますのに、あなたの脚でどれほどかかりますか」
大伴夫人は眼のまえにかしこまっている子麻呂にきいた。
「さよう、夜も歩くといたしましても、やはり三日はみておかねばなりますまい」
子麻呂は答えた。
「馬ではどうでしょう」
「あす未明に発(た)てば、なんとか夜半には着けると思います」
「では、馬にしてください。大伴の馬をお貸しします」
情勢は切迫しており、ここ数日のあいだになにかが起きそうで、鎌足が構想をねっている余裕はもはやない、というのが夫人の判断である。