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【書評】『ロックフェラー回顧録』デイヴィッド・ロックフェラー著
■率直につづった一族初の自伝
92歳の著者は石油王で、アメリカ一の大富豪ジョン・D・ロックフェラーの孫として豪邸で育ち、チェース・マンハッタン銀行に君臨して、全世界を舞台にして活躍した。大著の自伝であり、生い立ち、仕事、家族間の葛藤(かっとう)まで描いた壮大なドラマとなっている。外交、経営、富豪一族の内側を覗(のぞ)くことができる。
ロックフェラー一族のメンバーがはじめて書いた自伝であって、興味が尽きない。周恩来、イランのパーレビ帝、イラクのフセイン大統領をはじめ世界の首脳と、しばしばアメリカ政府の意を受けて会談するが、祖父の血を享(う)けて、つねに自行の商売に利用してきた。「三極委員会」をつくったことで有名だが、自行のためにグローバリゼーションを進める手立てだった。世界に商圏を拡(ひろ)げることは、「私の石油で中国のすべてのランプを灯そう」といった、祖父の見果てぬ夢だった。
読者は多くの生態系が棲(す)む、豊かな樹海を探索することになる。短い書評で、紹介するのが難しい。著者は6人兄弟の末っ子だが、幼時に孤独に駆られた。後に副大統領となる兄のネルソンを「崇拝」して育ったが、ネルソンが離婚して再婚すると、軽侮(けいぶ)に変わる。本書が率直で、包み隠すところが少ないのに驚かされる。ネルソンが愛人の若い女性秘書と同衾(どうきん)中、腹上死したことにも触れている。著者が母校ハーバード大学に、一族の名を冠した神学校の建物を寄付する。ところが、学生たちが「偽善者で、贋(にせ)のキリスト教徒だ」と叫んで、抗議した。「私は頭に血がのぼり、口がきけなかった」と回想している。
6人の子はみな反体制主義者となった。2人の娘とも一族の血を恥じて母の姓を名乗り、その1人が共産主義者となって、キューバのカストロ議長を崇(あが)めるようになる。著者は子育てに失敗したことを認めている。アメリカがどう変わったか、20世紀のアメリカの優れた時代精神史ともなっている。訳がよい。楡井浩一訳(新潮社・2730円)
外交評論家・加瀬英明
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【プロフィル】David Rockefeller
1915年、アメリカ生まれ。ハーバード大学卒。石油、金融で巨額の富を築いたロックフェラー家当主。

