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【奈良のたからもの】藤原氏の風俗精緻に描く〜春日本・春日権現験記2巻
春日権現験記絵は、ちょうど700年前、延慶2(1309)年に左大臣西園寺公衡(さいおんじきんひら)が、藤原氏の繁栄を祈念し、春日社に奉納した20巻に及ぶ絵巻物。春日明神の霊験の数々を宮廷の絵所の長官であった高階隆兼(たかしなたかかね)が描いた鎌倉絵巻の逸品として知られる。
原本は、現在は宮内庁三の丸尚蔵館に収蔵され、修理が進められているが、春日大社には、文化4(1807)年の松平定信(まつだいらさだのぶ)自筆の奥書のある優れた模写本があり、その全容を知ることが出来る。
本絵巻は、平安から鎌倉時代の春日社や興福寺の描写は勿論、春日を氏神と仰ぐ藤原氏の貴族などの風俗が精緻に描かれていることが特徴とされる。一場面の絵は、時に4メートルから5メートルにも及び、総じて重要なテーマを扱うが、展示の機会は限られる。今回は長尺の場面をじっくり味わっていただくことを心がけた。
その一つが2巻寛治御幸事(かんじみゆきのこと)の場面。寛治7(1093)年、白河院が春日社に詣で、盛大な儀式を尽くされた話で、二の鳥居到着の喧騒(けんそう)と着到殿での行列揃え、霞(かすみ)を隔て神前での荘重な東遊(あずまあそび)の舞いが描かれる。特に活気にあふれた二の鳥居の場面は、出色だ。
院政期は、神仏へ美麗なものを手向けることが競われた時代で、彫刻や工芸品として伝わるものもあるが、神への手向けの一つである華やかな行列は、絵でしか確かめることは出来ない。
馬を引く口取(くちとり)の橙色の装束にあしらわれた桜は、よく見ると花や葉が装束から飛び出ている。これは絵が下手なのではなく、立体的な飾りを装束に付けているのだ。そもそも風流(ふりゅう)と呼ばれるきらびやかな装飾は、紙や木や布で作られ贅沢かつ一過性であることが身上だった。
院政期は、また政治的駆け引きや抗争を繰り返しながらも藤原摂関家と院が春日への崇敬を競った時代で、春日社興福寺としては、勢力の維持のため、院の崇敬の強調が不可欠だった。特に力の入った場面の背景にはこんな事情もうかがわれる。
(春日大社宝物殿主任学芸員・松村和歌子)
本宝物は、春日大社宝物殿「春日権現験記絵巻と平安鎌倉の美」(7月26日まで)で展示中。


