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森山大道展、鑑賞記 作家・前田司郎 影からの化け物。犬 (1/2ページ)
このニュースのトピックス:美術・芸術
まるで影から立ち上がった化け物みたいでした。ゆらゆらと実体の無い、黒い。失礼か。森山さんを初めて生で見て僕はそんな感じを抱いた。何か不気味な、それでいて愛嬌(あいきょう)のある印象。
20代のだいぶ後半になるまで、森山大道の写真はあまり好きではありませんでした。僕は今31歳です。格好良過ぎるように感じていたのです。森山大道が好きと言えば自分も格好良くなれるような錯覚を覚えさせてくれる写真だと思っていました。
僕が受け付けなかった格好よさはニヒリズムです。あの色の無い、粒子の粗い、人の肌のようなトーンを持った写真。人間のグロテスクな部分、例えばあの有名な写真を思い浮かべてみてください。ガラクタが落ちた細道をスリップ姿の女が逃げていくような写真、海水浴場に集まった若者たちのまるで死者が群れているかのような写真、どれも不気味でグロテスクであまりにもナマな気がします。それらの写真に、なんというか、「人間なんてこんなにもグロテスクなんだぜ」というような、シニカルな視線を感じていたのです。それって格好良過ぎる気がする。そう思うとなんとなく、好きになれずにいました。
僕も20代をだいぶ過ぎ、フリーターを卒業して劇作家を仕事にし始めたころ、なにかのタイミングでまた森山さんの写真集を何冊か見る機会があったのですが、その時の印象が全然違っていてビックリしたのです。いや、印象は同じなのに、森山さんの目がシニカルに斜めから見ているのでなく、しっかりと被写体に正対しているように思えたのです。

