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【露地庵先生のアンポン譚】森村泰昌 第13話 パリでは、遅れ気味がいい (3/3ページ)
このニュースのトピックス:美術・芸術
私には、今回のパリ滞在期間中にやっておきたいことがあった。それは、かつて写真家ロバート・キャパが撮影した写真の場所に行くことであった。ナチスドイツに占領されていたパリが解放された一九四四年、歓びに沸く群衆を撮った有名な写真がある。その撮影現場を探し出し、キャパと同じ位置からの現在の風景を写真にしたかった。新しい作品制作のためにその写真が必要であった。
私が求める場所は容易に特定できた。シャンゼリゼ通りのやや凱旋(がいせん)門寄り、メトロの駅でいうとジョルジュ・サンク駅を降りてすぐの交差点。セーヌ川に通じるジョルジュ・サンク通りを背に北東を向いて立つと、細くなった通りとその左右に並ぶ街並みが見える。
六十数年前にキャパが撮影した風景がそのまま現れる。占領されたが戦禍にはみまわれず、地震もなかったという幸運が、この街並みを残しえたとも言えるが、「遅れ気味」をよしとする精神が生きていなければ、早々と街の活性化が叫ばれて、超高層ビルに建てかわっていた可能性もある。
私の周辺にはパリ好きの人が多い。それはかならずしも、ファッションをはじめとする時代の先端を担う街としてのパリではなさそうである。「過去」の記憶の長く尾を引く残響音を街のそこかしこで感じとりつつ、私はそう確信した。(美術家)

