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【町猫浪々】変わりゆく景色に迷いはしないだろうか (1/2ページ)
いつもながら地図を持たずに町を歩いていた私は、迷路のような東向島(ひがしむこうじま、東京都墨田区)の路地を行きつ戻りつ、さまよっているうちに、いつの間にか、この町にたどり着いていた。
夕暮れの薄暗い空の下に立ち並ぶ黒々とした長屋や木造家屋、とうになくなったと思っていた木製の物干など、戦前の面影が色濃く残る一角を目の当たりにして、しばしその場に立ちつくした。
それまで京島(きょうじま、東京都墨田区)という町名すら知らなかっただけに、その印象は鮮烈だった。買い物客でにぎわう橘(たちばな)商店街で名物のコッペパンを見つけて、懐かしさのあまり思わず土産に買ったのも忘れられない。かれこれ18年も前のことである。以来、たびたび訪れていたが、今世紀に入り、湾岸という新しいエリアに関心が移るにつれて、次第に足が遠のいていた。
久しぶりに出かけてみようと思わせたのは、1枚の写真だった。写真の整理中、ふと目に留まったカラーポジには、日なたでくつろぐ赤い首輪をしたサビ猫(鼈甲(べっこう)柄の猫)と、その背後には真っ白な洗濯物を取り込む婦人の姿が、玄関のガラス戸に映り込んでいた。
そこは初めて京島を訪れた日に、偶然迷い込んだあの思い出深い場所だった。その写真を撮ってからすでに6年が過ぎていた。笑顔で話をしてくれた婦人と猫は今も健在だろうか。


