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【産経抄】11月8日

2007.11.8 03:29
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 庭に男がゴロンと寝ころんでいる。それをオカッパ頭の女の子と猫が、上からのぞき込んでいる。超俗の天才画家といわれた熊谷守一画伯の二女の榧(かや)さんが、父親をモデルにして、ちゃぶ台を彫り込んだ作品が目に留まった。

 ▼画伯が後半生の四十数年間を過ごした東京都豊島区千早の自宅跡に、榧さんが「熊谷守一美術館」を創立したのが、昭和60年のこと。将来作品が散逸することを恐れた榧さんが、所蔵作品を豊島区に寄贈して、このほど区立美術館(TEL03・3957・3779)として開館した。

 ▼画伯といえば、強い輪郭線と平塗りを組み合わせた、独特の画風で知られる。文化勲章を打診されたとき、「お国のためにしたことはないから」とあっさりことわったエピソードはあまりにも有名だ。

 ▼晩年は終日、草の生い茂る庭を散策し、時に榧さんの作品そのままに寝ころんだ。アリを観察して「左足の2番目の足から歩き始める」ことを発見したこともある。「仙人」の異名のゆえんである。家族を思う気持ちは人一倍強かったが、極貧の生活のなか、子供が次々に病気で亡くなっても、金のために絵を描くことはなかった。

 ▼所蔵する油絵のひとつ「仏前」には、長女の萬(まん)さんが戦後間もなく、結核のために21歳の若さで亡くなったとき、仏前に供えられた3個の卵が描かれている。親としての無念と、それをも作品として昇華してしまう画家の業(ごう)を感じて、粛然と襟を正さずにはいられなかった。

 ▼政界の珍騒動も、ようやく一段落ついたようだ。大物政治家のだだっ子のような振る舞いに、辟易(へきえき)した後だから余計に、画伯の人間としての魅力に圧倒された。小さな小さな美術館ではあるが、ぜひ立ち寄ってみることをお勧めする。

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