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【わたしの失敗】現代美術家・村上隆さん(45)(4)
■フランス人と大もめ
怒りは限界だった。2002年、パリで開かれた「ぬりえ」展。自らキュレーションを手がける展覧会の開幕まで、あと数日に迫っていた。
ところが、現地での準備は難航する。フランス人の気質を知らなかった。「高すぎる誇り、強すぎるテリトリー意識。パリに住む日本人にいろいろケアしてもらいつつ、最後までやるしかなかった。もう顔なんか見たくないってぐらい、彼らともめた」
毎日、たった1枚の絵を飾るにも、軋轢(あつれき)に苦しんだ。「絵は触るな。展示するのは俺(おれ)の仕事だ!」「位置は変えるな、俺が決めたんだから」。村上の怒声が響く。
「でも、展覧会がオープンして、ものすごい好評になったらコロっと変わって笑顔で抱きついてくる。ラティーノのいい部分、悪い部分を全部見た。彼らからしても、一切のルールを変えようとする傲慢(ごうまん)な日本人に憤っていただろうし、見たこともなかったのだろう。つまりはその軋轢こそコミュニケーションだったと思う」
西欧人は「したたかで打算的」。しかし、実力がありさえすればリスペクトしてくれる。それから、村上と彼らの長い友情が続いている。
ぬりえ展は大成功をおさめた。日本特有のかわいいキャラクターやアニメを芸術へと昇華してみせた。今、米・ロサンゼルス現代美術館で今月29日から始まる回顧展「(c)MURAKAMI」の準備に奔走する。4都市を巡回する大規模な展覧会に注目が集まる。飛ぶ鳥を落とす勢いかと思いきや、意外なことを言い出した。
「海外のメディアは、僕らのことを買いかぶって、良いことをいろいろと書いてくれる。そんな立派じゃないのに」。自ら設立した会社、カイカイキキで寝泊まりする日々。「僕だって、イギリスのアーティストのようにお城でも買いたいですよ」と冗談めかす。
村上は数年前から、大きな睡蓮(すいれん)鉢でメダカを育てている。お城を買うよりも、「蓮(はす)畑を作るのが夢です」。蓮やメダカを育て、慈しむことは、どこへつながっているのだろうか。
「東京の荒川近くで育ちました。荒川では、大きな手長エビ捕って遊んだ。睡蓮鉢は、幼少のころへのノスタルジーかもしれないですね」
ふと、迷いなく世界を見つめる現代美術家の目が、和らいだ。=敬称略(猪谷千香)
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次回は料理人、神田川俊郎さんです。