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【歴史の交差点】東京大学教授・山内昌之 見捨てられた金曜日

2009.7.3 03:21
このニュースのトピックスオバマ米大統領

 金曜日はイスラムの安息日である。この集団礼拝の日、人々はモスクに向かい、宗教指導者の説教に耳を傾ける。

 イランの最高指導者ハメネイ師は、6月19日の金曜礼拝でアフマディネジャド大統領の陣営に公然と加担したことで、「法学者の統治」における超然的権威を自ら放棄した。

 この日は、選挙結果に異議を申し立てた改革派の市民にとって、詩人フォルーグ・ファッロフザードの表現を借りれば、「古い路地のように哀(かな)しい金曜日」あるいは「病的で怠慢な考えが浮かぶ金曜日」(「金曜日」『現代イラン詩集』鈴木珠里・前田君江ほか編訳、土曜美術社出版販売)として記憶に残ることだろう。

 一時は10万人のデモが街頭に出た熱気は、ハメネイ師とアフマディネジャド大統領の結託した体制暴力によって封じこめられている。イスラム共和国の制度改革を求めた市民の意志は潰(つい)えたかに見えるが、「法学者の統治」というシーア派の宗教者が全能の裁定者となる政治構造は、長期的に見て「終わりの始まり」の局面に入ったといえよう。

 何よりも一党派の領袖に転落してしまった最高指導者は、民主主義の担い手たる市民の意志を無視してしまったために、体制を構成する力の微妙な均衡を自ら崩してしまった。

 そのうえ、当初から学識や修業の面で、最初のホメイニ師はもとより聖都コムの高位宗教者と比べて見劣りしたハメネイ師の指導力や判断力に公然と疑問符が付けられてしまった。

 窮地に陥ったハメネイ師を失脚から救ったのは、革命防衛隊やバシジ(人民動員軍)の神をも恐れぬ街頭暴力にほかならない。

 カリスマ性の喪失を印象づけたハメネイ師の精神的権威に代わって、これからイランの政治体制を支えるのは革命防衛隊による「軍国主義化」の暴力になるだろう。アフマディネジャド大統領の第2期の施策は内外ともに歓迎されるものにならない。

 ばらまきと熱狂によって下層貧困層に訴えるポピュリズム(大衆迎合主義)、「イスラムの核」の開発で米国やイスラエルとの均衡をはかる軍拡路線、ヒズボラ(レバノン)やハマス(パレスチナ)を支援する革命的ロマン主義、思想や生活の欧米モードを無慈悲に圧迫する不寛容性。

 これらの行き着くところ、イラン人の重んじる教養や知識の侮蔑(ぶべつ)、民主主義の妥協的手続きの拒否、中東からイスラム世界を見渡すコスモポリタニズムならぬ「超国家主義」への執着などの傾向を予測し、1930年代の欧州ファシズム運動と比較しながら「イスラム・ファシズム」になるのではと予測する論者もいる(『ルモンド』6月23日)。

 この見通しは極端かもしれないが、第1期でも大臣21人のうち14人が革命防衛隊やバシジ出身者だった政権の第2期には期待できるものは、国際的にあまりなさそうだ。核開発をやめる動きはなく、オバマ米大統領の対話外交も困難な局面に立たされる。

 いまはイランの市民にとって、言論や集会の自由だった日が「期待もない金曜日」「服従の金曜日」にならないことをただ願うのみである。(やまうち まさゆき)

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