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【正論】空幕長論文の正しさ・つたなさ 東洋学園大学准教授・櫻田淳 (1/3ページ)

2008.11.7 03:36
このニュースのトピックス正論

現場職務と「歴史認識」

 田母神(たもがみ)俊雄航空幕僚長が「日本は侵略国家であったのか」と題された論稿(以下、「田母神論稿」と略)を懸賞応募論文として発表し、更迭された一件は、「正しい議論」と「賢明な議論」が自(おの)ずから別種のものであることを筆者に再確認させた。

 たとえば、「田母神論稿」が訴えたように、集団的自衛権行使の許容、武器使用基準の緩和、攻撃的兵器(策源地攻撃能力)の保持が、日本の安全保障政策上、必要であるという主張は、日本の安全保障研究者には受け容(い)れられるものであろう。その点に関する限りは、「田母神論稿」は、「正しさ」を含んだものであろう。

 しかし、「田母神論稿」は、2つの意味において「賢明さ」を備えてはいなかった。

 第1には、こうした論稿を航空幕僚長が発表する「必然性」は、甚だ乏しいものであった。「田母神論稿」は、もし前述の安全保障体制に絡む不備を「現場の声」を代弁して訴える趣旨のものに留まっていたならば、「勇気ある問題提起」と解されたかもしれない。しかし、「田母神論稿」では、何故(なぜ)、歴史認識の開陳が行われたのであろうか。こうした歴史認識の開陳は、政治(活動)家や歴史家、あるいは思想家ならば手掛けるかもしれないけれども、航空軍事組織の総帥としての職務とは、全く関係のないものである。

政策の合意形成に支障

 「日本は侵略行為をしたのではない」云々(うんぬん)という主張には、筆者は、「そもそも、貴官が、それを語って何の意味があるのか」と反問せざるを得ない。振り返れば、終戦時の陸軍大臣であった阿南惟幾には、二・二六事件の折、陸軍幼年学校校長として全校生徒を集め、「農民の救済を唱え政治の改革を叫ばんとする者は、先ず軍服を脱ぎ然る後に行え」と厳しく訓示したという挿話が伝えられている。『軍人勅諭』にも「世論に惑はす政治に拘らす只(ただ)々一途(いちず)に己か本分の忠節を守り…」という訓戒がある。「田母神論稿」は、武官としての「本分」からも疑義のあるものではなかったか。

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