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【「’08北京」に寄せて】建築家・安藤忠雄 人間の可能性の再発見

2008.8.24 02:55
このニュースのトピックス2016年東京五輪招致

 2016年五輪の東京招致活動にかかわる一人として、北京五輪を複雑な気持ちで眺めた。

 7年前のIOC(国際オリンピック委員会)総会で開催国に選ばれて以来、中国の発展はさらに加速度を増し、世界の注目を集めてきた。民族の威信をかけ、北京五輪へひた走った中国の合言葉は〈世界一〉と〈世界初〉。新しくつくられた競技施設も、いずれも最先端の建築デザインで、賑(にぎ)やかなことこの上ない。

 かつて日本は、1964年の東京五輪をバネとして敗戦から復興へ大きな飛躍を遂げた。中国もまた、この祭典を自国躍進のための最大のチャンスとするのだろう。

 結果的に、チベットなど人権問題をはじめ、都市と農村の格差、環境汚染など、中国の抱える〈矛盾〉が国際社会に喧伝(けんでん)されることとなり、北京五輪に否定的な論調も目立った。それを力で押さえ込んでの〈強行〉開催であったが、ともあれ大会の中止ないしボイコットがさけられたのは喜ばしいことだった。

 確かに、五輪をナショナリズムの衝突の場所と考えるならば、経済の発展と政治的な複雑さがかみ合わない中国は、ホスト国として問題があったかもしれない。だが、五輪の真の意義は、単に「中国が勝った! 日本が勝った!」というのを超えた、人間の可能性の再発見にある。

 国境を超えてすべての競技者が〈地球人〉として競い合い、その感動を数十億の人々が共有する−−開催国がどこであろうと平和の祭典であることに変わりはない。

 中国は多くのメダルを勝ち取り、ナショナリズムは最高潮に達した。だが、一方でオリンピックを通じて、世界の人々は中国を知り、中国の人々は世界を知った。その経験が、中国の国際戦略にいかなる影響を及ぼすか。注目すべきは五輪後の大国の姿だ。

 2016年五輪を目指す東京は、今のところ、最終4都市の候補にまで残っている。公共交通機関の充実したコンパクトな都市形態、世界都市ながらテロがない治安の良さに、食の安全や積極的な環境対策が評価され、1次選考は思いもよらず、1位通過した。

 私たちが考えているのは、このポテンシャルを生かした、成熟した都市のグランドデザイン−−地球環境の危機が叫ばれる時代に相応(ふさわ)しい、親密で温かい、〈新〉東京五輪のイメージだ。必要な施設は、可能な限り既存の建物を再生・再利用して整備する。盛大なモニュメントをつくる代わりに、街路樹を増やして都心部の緑の公園をつなぎ、〈緑の回廊〉と〈風の道〉をつくる。

 さらに、健全で美しい循環型の都市活動が営まれるようなシステムを一般の生活レベルからもっと徹底して導入、都心部は自主的に車両乗り入れを制限して人間中心の〈歩ける街〉とするなど、都市インフラの再編と同時に人々の生活価値観そのものを地球環境再生の方向に転換していく。

 8年後のオリンピックを東京で開催することで日本人の心に感動と希望を取り戻し、日本だからこそ伝えられる未来の地球へのメッセージを発信する機会としたい。

 招致計画のシンボルプロジェクトは、東京湾のゴミの埋め立て地を市民の寄付により緑の森として再生する『海の森』植樹運動だ。

 皆で力を合わせ、夢を実現したい。(あんどう ただお)

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