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【はてなは、はてなし】論説委員・坂口至徳 パンダの手も借りたい
中国・四川大地震でジャイアントパンダ3頭が行方不明になり安否が気遣われている。保護区や繁殖の研究基地がある現地からの速報が地震発生直後から伝えられているのも、世界中で愛され、パンダ外交でも有名な動物であることの証左だろう。
3月に中国の提唱による「国際パンダ研究プロジェクト」が立ち上がったばかり。希少動物であるパンダの全ゲノム(遺伝情報)の解読を果たし、進化や生態の全容を明らかにする計画で、研究拠点が被災しているだけに一日も早い復興を願いたい。「プロジェクトの成果により、パンダが本当にクマ科であるかはっきりと確かめられ、なぜあのような白黒の配色になったかなど、多くの謎が遺伝子により裏付けられるでしょう」(国立科学博物館動物研究部)と研究の続行を期待する声も多い。
今回のプロジェクトには、欧米やカナダの研究者も参加している。生物のもっとも基本的な設計図である全ゲノム解読については、中国や欧米を中心に行われているからだ。中国は昨年、中国人のゲノムを完全解読し、次いで国のシンボルであるパンダを対象に選んだ。研究成果のアピール効果は抜群だろう。
こうしたゲノム解読研究は地道な努力の積み重ねだが、基本的なデータだけに、幅広いゲノム研究の展開の支えになり、国際貢献の意味合いは大きい。それだけに、解析技術については「より早く、より安く、精度を高めて」という時代の要請が強く、DNAシーケンサーという高速で自動的にゲノム解析する器械をすさまじい勢いで進歩させている。
ゲノム解読の原理は、暗号文を読むようなもの。ヒトのDNAには4種類の塩基といわれる物質が30億個も並んでいて、これがどのような順番か調べていき、その並び方が示す意味を探る。
シーケンサーが威力を発揮しはじめたのは、1990年に始まったヒトの全ゲノム解読の国際共同研究プロジェクトから。月に人類を送りこんだ「アポロ計画」に匹敵する大事業とされ、約30億ドル(約3000億円)の当初予算が組まれ、13年の歳月がかかった。
ところが、現状はまったく違う。解析の材料に使うDNAの扱い方などに全く異なる方式を導入したシーケンサーが相次いで登場して性能が飛躍的に向上した。昨年、DNAの二重らせん構造を解明したジェームズ・ワトソン博士が自身の全ゲノムを公開したが、その際に新方式の器械を使ったところ、4カ月以内ででき、経費も約100万ドル(約1億円)で済んだという。さらに器械の開発は進んでおり、ゲノム解読の研究はますます盛んになるだろう。
シーケンサーについては、1980年代初めに、日本の学者が世界に先駆け研究開発を提唱し、ヒトゲノム計画の構想に発展したものの、この動きに刺激された米国が主導権を握ったという苦い経験がある。このため、ヒトゲノム計画での解読率は米国59%に対し日本は6%にとどまった。中国は約1%だったが、その後、大きく力をつけたことになる。
日本は、ヒトゲノム計画終了後は、ゲノムの機能解析に主力を移して、遺伝子の個人差のデータベースづくりなど独自路線を歩み、国際的な評価を得ている。次世代シーケンサーの開発では出遅れているが、パンダのゲノム研究のように国際貢献での存在感を示す研究でも巻き返しを期待したい。(さかぐち・よしのり)