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【産経抄】5月16日
このニュースのトピックス:言語・語学
作家の伊集院静さんが、故夏目雅子さんの心をつかんだきっかけは、目の前で「憂鬱(ゆううつ)」と漢字でさらさら書いてみせたことだという“伝説”がある。正直言って、いきなり「鬱」の字を手で書けといわれたら自信がない。
▼そもそも天下の美女相手に、漢字能力を披露する機会が訪れるわけもないのだが、この字が、常用漢字になる可能性が出てきた。改定作業を進めている文化審議会の漢字小委員会が、現在の1945字に、新たに加える候補として発表した220字のなかに入っていた。
▼なるほどこのコラムを含めて、コンピューターを使った文書作りは、今やごく当たり前のこととなっている。うつという読み方を知っていれば、キーを押すだけで出てくるのだから、常用漢字に加えることには異議がない。
▼ただ、ほかの候補の漢字を見ると、首をかしげるばかりだ。「岡」「奈」「阪」「韓」や「脇」「謎」など、地名や日常的に使われているこんな漢字まで、含まれていなかった。常用漢字は、漢字使用の目安というが、もとになっているのは、終戦直後に、漢字の使用を制限する目的で制定された当用漢字だ。
▼最近、洋画の字幕さえ持て余す若者が急増していることから、吹き替え版にシフトする動きがあるそうだ。知的レベルがそこまで落ちたのは、戦後の間違った国語政策のせいだとする批判も根強い。漢字使用の拡大もけっこうだが、常用漢字という制度そのものを見直す時期ではないだろうか。
▼漢字学者の白川静さんの研究成果が広く知られるようになったこともあり、漢字文化復興の機運も高まっている。小欄は、お上の決めた目安に関係なく、必要と思われる漢字を、極力ルビを振った上で使っていくつもりだ。