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【すごいぞ日本】ファイルIII 心やさし(2)仕事をしないロボット (1/2ページ)
■仕事をしないロボット
日常の会話をかわすことすらほとんどできなくなった80代の女性が、パロを手渡される。そのとたんに顔色が変わった。車いすから背を起こし、そっと抱きしめる。
「クウー」
パロが反応し、もぞもぞして小さく鳴いた。女性の目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
「動いてる、お話ししてる…。うれしい…涙が出るほどうれしいの、あー」
茨城県の筑波山のふもとにある介護老人保健施設では、アザラシ型のロボット「パロ」を使った「ロボット・セラピー」を介護に取り入れている。
ロボットが腕の中で動いたとき、女性は何を思って感極まったのだろう。以前、飼っていたペットのことか。子育ての思い出か。あるいは先立った夫のぬくもりだったのか。それは彼女にしか分からない。
「パロは人の感性を刺激し、過去の記憶や経験を呼び起こす。その人の主観的な価値を生み出す心の世界のロボットなのです」
産業技術総合研究所の柴田崇徳主任研究員(41)はこう話す。パロの開発に着手したのは1993(平成5)年。ロボットは人間の代わりに仕事をするもの。それが当時の常識だった。
「仕事をしないロボットを作りたかった。人の心に働きかけ、精神的なサービスをするペット型ロボットを思いついた」
モデルはタテゴトアザラシの赤ちゃん。本物らしさにこだわり、カナダの流氷まで会いに行き、動きや毛の感触を確かめた。鳴き声も実際に録音したものを使っている。
かわいらしい姿からは想像できないほど、中身はハイテクがぎっしり。優しくなでたり、抱っこしたりするとセンサーが感知して、うれしそうに鳴く。ひげを引っ張ると嫌がる。「おはよう」「かわいい」など約40の言葉を認識でき、話しかけると顔を向ける。名前をつけると記憶し、ほめられた動作を繰り返すので、飼い主の好み通りにしつけることもできる。
パロと触れ合ったお年寄りはストレスが減少することが、ホルモンの測定で確認された。認知症患者では、情緒の安定化や脳機能の改善がみられる。14年に「世界で最も癒やし効果があるロボット」としてギネスブックに認定され、17年に商品化した。価格は35万円。

