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【青雲の大和】(211)新羅の砦
みるからに小賢しい廉宗(れんそう)の顔が、そのときひきつれたように強ばっていくのを、玄理(くろまろ)はみつめていた。
この男が唐帝李世民(りせいみん)の半島征服の野心におもねって、自国新羅(しらぎ)を唐に売りわたそうとしているのを玄理は知っている。
唐の大将軍になっている盟友、徐世勣(じょせいせき)から、請安(しょうあん)がききだしてきたのである。
−−隣国に侮られる女王を廃す、
というのは、廉宗にとって自国を唐に売りわたすための策謀の手始めにすぎない。女王を廃したあと、唐帝李世民の一族、または臣下を新羅のあたらしい王として迎えいれ、新羅を唐の属国ないし属州にするというのが、この売国奴どもの策略なのである。
「われらは貴官が長安でなにを策したか、そのすべてをつかんでいる。隋、唐で三十年、われらは無為にすごしたのではないのだ」
激してくるものを抑え、廉宗に罪状をつきつけるようにいうと、
「わかっておるのなら、それでよろしい」
と、●曇(ひどん)がひきとって、
「大使、副使とも、ここに留まっていただくことになる、それだけのことである」
と言い放った。
「ただし、こんな山城に長居はごめんだといわれるのならば、べつの方法を考えてさしあげてもいい。二人そろって、あの世へ旅立ってもらうということである」
そのことばで廉宗は、広間の後方の出口につめている兵にむかって、なにかを指示した。
と、暗い通路の奥から手を縛られた二人の男がひきだされてきた。新羅官吏の青い制服を着ているところをみると、女王派の役人であるらしい。
「この者ども、王宮からやってきてわれらの決起を知った。生かして帰すわけにいかないゆえ、これより斬首する」
●曇が漢語でいった。あなた方もこうなりますぞ、という脅しである。
玄理はそれをきくと、ゆっくりとその場をはなれ、広間の窓ぎわに歩をはこんだ。
ゆうぜんとした玄理の動きに、●曇、廉宗ばかりか、出口をかためる兵らも眼をうばわれている。
夕闇せまる空は、わずかに西方にあかね色の雲をひと筋のこすのみである。その下あたりに徳曼(とくまん)女王と王族の金春秋(きんしゅんじゅう)らがいる王宮があるはずである。
しかし、もし女王派の部隊が救援に駆けつけるとしても、この明活山城(めいかつさんじょう)に達するには、部隊編制をふくめ数日を要するとみなければならない。となれば、脱出の可能性はないということである。
「なるほど、いわれるとおり風光明媚(めいび)な山城ではある」
玄理は皆の視線をうけ、もとの位置にもどりながらいった。わざとゆったりとした動作をとりながらも、頭脳はめまぐるしく動いている。
「この景色をみながら、山城に長逗留(ながとうりゅう)するのもわるくはないが、そのさいあなたがたに忠告をしておきたい。一つは、あまりことを急いで大和を敵にまわすことのないように、ということである。いま、大和を敵国にして、あなたがたにいかなる利があるのか、よく考えてから行動したほうがよい」
そういうと、●曇は、
「隋、唐で勉学を積まれた大先生だ、ご忠告はきかねばなるまい」
と、冷笑をにじませていった。(編集特別委員)
●=田へんに比