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【断 中条省平】横尾忠則がすごい

2008.4.30 03:12
このニュースのトピックスコラム・断

 横尾忠則がすごいことになっている。

 いま東京の世田谷美術館で「冒険王・横尾忠則」という大規模な展覧会が開かれており、それを見れば、横尾が現存する日本の美術家で最大のスケールをもった才能であることが一目瞭然(りょうぜん)だ。「スケール」というのは、そのままで世界の美術界に通じる存在感と表現力の多彩さということである。

 そんなおり、彼は突然「隠居」を表明して、デザインはもちろん、絵も注文仕事を一切やめてしまった。好きなことしかしないというのだ。かつての異端児・横尾も今年で72歳。生活もスローダウンするのかと思ったらとんでもない。

 大量の近作を含む前述の展覧会に加えて、この2、3カ月で立て続けに4冊の新刊を出した。

 その名も『隠居宣言』に、毎月一個所温泉をめぐって1枚ずつ大作タブローを描き、24枚完成して紀行文も付けた『温泉主義』。100点以上の関連絵画を添えたエッセー集『人工庭園』。さらには、初の本格的な小説集『ぶるうらんど』と来た。

 横尾忠則は『コブナ少年』や『インドへ』などエッセーの名人でもあるからそうは驚かないが、『ぶるうらんど』にはびっくりした。

 あの世が舞台で、登場人物はみんな死人。全篇に淡いノスタルジーを漂わせ、無責任なユーモアに浸されている。この道をさらに究めれば、内田百●、吉田健一、藤枝静男などの幻想小説の域に近づくのではないか。そんな期待をしたくなった。(学習院大学教授)

●=もんがまえに月

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