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【断 櫻井秀勲】貴作拝見 没

2008.4.17 02:28
このニュースのトピックスコラム・断

 ヘミングウェーをはじめ、ノーベル賞作家を14人も手がけた名編集者が来日した、という報道があった。英国の文芸出版社のトム・マシュラー氏がその人だが、無名の作家を発掘した天才のようだ。

 実は日本にも彼に優るとも劣らない大編集者がいた。8年前、86歳で亡くなった新潮社の斎藤十一氏だ。建国記念日にちなんだ名の由来にふさわしく、生涯、日本的な作家を発掘し、育てた。

 彼は新潮社の顔であり『新潮』『芸術新潮』『週刊新潮』、写真誌『FOCUS』の実質的創刊編集長だった。人前に出ず、新潮社別館の「28号室」の長椅子(いす)でパイプをふかしながら、いつも原稿を読み耽(ふけ)っていた。

 使えると思えば「貴作拝見 良し」、使えないものには「貴作拝見 没」。このたった一行の葉書に一喜一憂した作家は数知れない。私は芥川賞作家の五味康祐から「没」の葉書を見せられたが、太宰治、三島由紀夫、柴田錬三郎、立原正秋らも歯を食いしばって「良し」をもらおうと努力したという。

 マシュラー氏は「勘」で、優れた作家がわかったという。斎藤氏は「デーモン」を判断基準にした。デーモンとは、作家として書かずにいられない何かを指し、それを持つ作家を評価した。彼は五味、山口瞳、松本清張、柴田を「天才」と見抜いたようだが、まさに憑(つ)かれたものを持った作家といえるだろう。

 私は彼を、戦後が生んだ最高の編集者と尊敬している。いつ彼を超える編集者が生まれるのだろうか。(評論家)

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